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「ポテトってさ、もう一本だけもう一本だけって思いながら摘まんでたらいつの間にか無くなってるよね」
「そりゃ摘まんでるからな」
北灯はファミレスの四人掛けテーブルの中心に置かれたポテトフライの山から一本摘まんで「まあそうなんだけどさ」と口に放り込んだ。
彼女の頼んだメガ盛りポテトフライも残り三分の一ほどになっている。
「でもね豊城くん、ポテトは死んだわけじゃないよ。このポテトは私に消化吸収され血となり肉となり、そして永遠となるのだ」
「なんだこのラスボス感」
「ふっふっふ」
セリフとは対照的に雑魚キャラのような笑みを浮かべて北灯はまた一本ポテトを摘まむ。
壁に掛けられた時計を見ると、時刻は午後五時十五分。
僕たちが店に入ったのは五時頃なので、彼女は一〇分ほどでポテトの半分以上を食べているわけだ。シンプルに計算すれば、あと五分もすれば無くなるだろう。ちなみに僕はまだ一本も食べていない。
「豊城くんはどうして食べないの?」
僕の手が動いていないことに気付いた彼女が不思議そうに尋ねた。それと同時にもう一本ポテトを口に運ぶ。『食べないの?』と言い終えた口の形にポテトが綺麗に収まった。
「考えてたんだよ。このポテトを食べると夕飯が食べられなくなるんじゃないかって。もしくはベストコンディションで夕飯に臨めないかもしれない。ほら、空腹は最高のスパイスって言うだろ」
「いや考えすぎでしょ。ポテトくらいじゃ夕飯には何の影響もないから。それより早く食べないと無くなるよ?」
「確かにタイムリミットも重要だよな。もう少しだけ考えさせてくれ」
「うん、まあいいけど。私は止まらないからね」
その言葉通り、彼女はペースを変えないまま次々とポテトを口に放り込む。先程まで高く積み上げられていたポテトの山がみるみるうちに小さくなっていく。
僕の人生みたいだな、とふと思った。
もう少しだけ、もう少しだけを繰り返しているうちに、いつの間にか無くなっている。
「あ、そういえば話があるんだけど」
「ん、なに?」
このポテトの山がまるごと僕の人生だとしたら、そのうちの一本は僕の寿命の何年分に相当するんだろう、などと考え始めたところで北灯の声に意識を引き戻される。
ちょうど彼女は最後の一本を口に放り込むところだった。
僕はちらりと時計を見る。
ほら、やっぱり五分だ。
「好きです。私と付き合ってください」
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