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4
「ポテトってさ、もう一本だけもう一本だけって思いながら摘まんでたらいつの間にか無くなってるよね」
「そりゃ摘まんでるからな」
「まあそうなんだけどさ」
彼女はそう言いながらポテトを摘まむ。
当然といえば当然のことだが、過去を同じように進めていけば未来も同じようにやってくる。彼女が僕に告白する未来は変わらない。
でもそれじゃ駄目だ。バタフライエフェクトを恐れていては何も変わらない。むしろ変えなければいけないのだ。きっとこの能力は、神様が僕に未来を変えるチャンスをくれたのだから。
僕が彼女に告白をするチャンスを。
……けど、それならもう少し前に戻ってくれてもよかったのに。昨日の夜とかさ。彼女の告白五分前って短すぎない?
「豊城くんはどうして食べないの?」
「考えてたんだよ。このポテトを食べると夕飯が食べられなくなるんじゃないかって。もしくはベストコンディションで夕飯に臨めないかもって。ほら、空腹は最高のスパイスって言うだろ」
「いや考えすぎでしょ。ポテトくらいじゃ夕飯には何の影響もないから。それより早く食べないと無くなるよ?」
北灯はポテトを次から次へと口に運ぶ。食べるペースが速すぎるんだよ。
まずは彼女の手を止めなきゃいけない。ポテトが無くなったら告白されてしまう。なんとか考える時間を稼がないと。
僕はスタンドに立てられたメニュー表を手に取った。
「とりあえずポテト追加しよう」
「え、さっき夕飯の心配してなかった? ついに狂ったの?」
「ついにってなんだよ。大丈夫、今死にそうなほどお腹空いてるから」
「そんなに飢えてるなら早く言ってよ。ポテト全部食べちゃったじゃん」
え、全部?
僕が開いたばかりのメニュー表から顔を上げると、ちょうど北灯がポテトの最後の一本を口に入れたところだった。
テーブルの上には真っ白な皿が物悲しそうに佇んでいる。
「あ、そういえば注文前に話があるんだけど」
彼女は口の中のポテトを咀嚼して、飲み込んだ。
「好きです。私と付き合ってください」
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