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「ポテトってさ、もう一本だけもう一本だけって思いながら摘まんでたらいつの間にか無くなってるよね」  もう何度このセリフを聞いたかわからない。そして僕も何度「そりゃ摘まんでるからな」と返したかもわからない。  僕の策はことごとく彼女に通用しなかった。どんな策を弄しても彼女は毎回ポテトを食べきり、毎回僕に告白をした。そのたびに僕は時間を巻き戻す。  だが何度巻き戻したところで、万策尽きた僕は同じ未来を迎えるだけだった。 「まあそうなんだけどさ」  北灯は今までと同じペースでポテトに手を伸ばす。同じペースでポテトフライが無くなっていく。  またこのまま同じ未来を迎えるのか。  そう思うと、無性に腹が立った。  こんな超常的な能力を得ておきながら僕はどうして何もできないんだ。ある種の永遠がこの手にあるのに、結局何もしようとしないじゃないか。  もう少しだけ、と僕はよく言っていた。  もう少しだけ時間があれば、僕だって決断できる。行動できる。そんな風に思っていた。  でも、そんなのただの言い訳でしかなかったと突き付けられる。  ……本当に、情けない。  目の前でポテトを頬張る彼女は、何度時間を巻き戻したって告白してくれるのに。 「豊城くんどうしたの?」    北灯は黙りこんだ僕の顔を不思議そうに覗き込む。僕はそんな彼女の顔を見て、この感情の始まりを思い出した。  羨ましい、と思ったんだ。  いつだって即断即決の彼女。自分に選びたいものがあって、それを「選びたい」と口に出せる彼女に憧れた。  それは自分の決断に、もしくは決断を進めた先の自分に、自信がなければできることじゃない。  その強さと勇気が眩しくて、僕は彼女のことを好きになったんだ。   「なんでもないよ」  そうだ。だからこそ僕は悔しかった。  いつか彼女の隣に立てるような自分になりたくて、せめて告白だけは僕からしてみせると決めていた。それなのに、また先を越されたから。  きっとこれはただの自己満足なのだろう。つまらないプライドと言ってしまえばそれまでの話だ。  でも、僕は。 「……いや」 「ん?」    でも僕はやっぱり、彼女と並んで歩きたいから。 「なんでもなくはない」  そう言って僕は彼女の伸ばした手の先から、ポテトの山が薄く残る皿を掠め取った。  そしてそのまま皿を傾けて、残ったポテトを一気に口に流し込む。意外と量が残っていた。口の中がいっぱいで息苦しいし、しょっぱい。  その様子を唖然とした表情で見つめる彼女をよそに、僕は口内に溢れるポテトフライを無理矢理に咀嚼した。   「え、そんなにポテト好きだったんだ……」 「ちがう」  大量のポテトをなんとか飲み込んで僕は北灯の言葉を否定する。  そして彼女の目を見つめて、訂正した。 「――僕は」  もう少しだけ、もう少しだけを繰り返した僕は。  君の中で永遠になれるだろうか。 「僕は君が好きなんだ。付き合ってください」
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