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僕は今、屈強な二人の警官に挟まれて、地下道を歩かされている。これから、冷たい牢獄に入れられるのだろう。そして、ゆくゆくは処刑台に立たされるのか。
手首に重くのしかかる鉄の塊を見て、アマネちゃんの顔が浮かんだ。
なぜ、僕を裏切ったのか。はじめから、そのつもりで僕に近づいたのか。最初の優しい笑顔と最後に見た軽蔑するような目。僕は彼女に騙されていた。
薄暗い闇の中を歩いているせいか、足元がおぼつかない。地下道の溝に躓き、派手に転んでしまった。全身の痛みに顔を歪める。
隣にいた警官に首根っこを掴まれ、乱暴に立たされた。そして、休む暇もなく、また歩かされる。その姿は、本当に惨めなものだ。
光らない宝石は、今も僕のポケットの中にある。本当の自分を知らないまま、宝石の輝きを見れないまま、僕はこの世界の正義に反した悪として消されてしまうのだろうか。涙で滲んだ視界を誤魔化すように唇をぐっと噛みしめた。
数時間前、僕は地平線が広がる草原につれてこられた。アマネちゃんによると、ここは「警察官が立ち寄らない秘密の場所」らしい。
「仮面の町に、こんな綺麗な場所があるなんて驚いたよ。ありがとう、アマネちゃん」
「ううん、喜んでくれて嬉しい。・・・それじゃ、わたし、用事があるから。ここで、ゆっくりしてて」
「え?どこに行くの?用事があるなら、僕も」
「いいの!!」
空気が凍りついた。
「留衣くんは、ここにいて。すぐ、戻るから」
「わかっ、た」
鬼気迫る言動に違和感を抱いたが、完全に信用していた僕は彼女を待つことにした。
数分後、数人の警官とともに、アマネが帰ってくる。
頭の中が真っ白になった僕は、逃走する余裕がなく、そのまま取り押さえられてしまった。
いろいろ思い出しているうちに、監獄の中にたどり着いた。
数十年間、掃除されていないのか。中は埃が充満し、錆びた鉄の匂いが鼻を刺激する。
キイッと乾いた音を立てて扉が開くのと同時に、その中に押し込まれた。二人の警官は無言のまま扉に施錠すると、背を向けて去っていった。
消えそうな蝋燭の火を頼りに周りを見回す。布団がないベット、蜘蛛の巣が張っている机、脚が一本折れている椅子。そして、壁に貼られている『絵』。
母親らしき女性が泣いている小さな男の子を慰めている。見ているだけで心がじわりと温かくなる絵は、裏切られた悲しみを軽くさせた。部屋の雰囲気や置物は殺風景なのに対し、その絵だけは輝かしい未来が描かれていたのだ。
冷たいコンクリートの床になにかが転がった。それは、磨き始めたばかりの宝石。これから、本当の姿を取り戻すはずだったもの。その瞬間、僕は崩れ落ちるように嗚咽した。理由は自分でもよくわからない。溢れていくその思いを止めることができなかった。
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