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捜査資料の持ち出しはできないが、自分の記憶にあるものなら書き留めておきたいだろう。
そこは公務員ということで守秘義務もあるだろうし、だがここには、新聞や雑誌のスクラップがきれいに保存され、それがこうして整然と並んでいるのもすごいなと感心してしまう。
写真は新聞社からもらったものようだ。
「こっちも下着がらみだな」
なに?
こっちは殺人か?
「なになに、犯人は殺した後必ず女性が身に着けていた下着を持ち帰っていた、だがいつしかそこに男性が入り込み、同じく下着がはぎ取られていた、なんだかなー」
「女の子、かわいいね」
白黒だがしっかりわかる。
「昭和だねー、男もかわいいかもな」
「イケメン、見て、ほら、芸能人みたい」
はるみの声が明るいのはなぜだ?
さあ?
「すごい人数だな?」
「見つかったのか?」
「わからない、拉致されて他の国に連れ去られたなんて証言もある」
「これもわかなんいのか?」
「それで―、ねえ、何を調べたいの―」
わかっているけどわざと聞く。
本棚の上の方を掃除している田神さん。ジャージ姿はレアだと写真を撮りまくる雄一。
これだけ大きな屋敷、さぞかし、田神さんもピアノとか習った口か尋ねると、こっちだなとバイオリンを弾く格好。
やっぱりかよ、なんて思ったのはシャーロックがバイオリンを弾くシーン?なんかむかつくよな。
「ああ、ちょっと待ってくれないか、確かこの辺に」
脚立に登り高いところに只積み重ねている紙を取った。
バサバサと音を立て落ちてきた資料。
「あのね、ちゃんとした本を上においときゃこんなことになんねえの」
「だって、そんな時間ないもん」
口、とがらせてもかわいくない。
結局のところ俺たちはこの大量のほんと資料の片付けに繰り出されたって言うわけ。
先輩たち?わかんね、倉庫の片付けだって連れて行かれた。
「昭和四十年代に起きた殺人事件なんだがな、まだ犯人は見つかってないんだ」
バラバラになった紙を抱える様に脚立から降りてくる人。下では、はるみと雄一が一生懸命拾い集めている。
センタは、バインダーに挟んだままの物を閉じる作業をしている。
なんで今頃、犯人が見つかったとか?
そうじゃないというのだ。
実は今一人の男性が殺人犯で捕まっているのだが、黙秘を続けていて、お手上げなのだそうだ。
殺人と言っても、本当に彼が殺したのかどうかわからない部分も多くてね。と田神さんは言葉を濁した。
「田神さんが言いたくないということは、男性の素性、事件、俺たちが勝手に推理していいってことだな」
「それでも、どういうことで捕まったのか教えてくれてもいいわよね」
ああそうだな。
軍手を取りながら、雄一の落とした写真を手に、話し始めた。
ある日、警察に一人の喪服姿の女性が来た。母親が殺されたと言ってきたのだ。
彼女は、病院で亡くなった母親を引き取り、葬儀をする直前だったのだ。
警官は、葬儀場へ行き、棺桶の中の母親を見るのだが。
一見、何も変わることのない遺体。
だが、葬儀関係者に言われ、顔に近づいた時。
「この匂い」
「おかしいですよね、こんな甘い匂い」
すぐに鑑識を呼び、調べると。
「毒物が検出されたんだ」
「毒?」
「病院でならあり得るか?」
「でもなんのために?」
それがわからないのだという。
犯人は、八十代の男性。
「八十?現役の先生じゃないの?」
引退したそうだ、だがなぜ彼が?
「実はな、その病院の医院長にあることを調査してほしいと頼まれてな」
はい、きた。
やっぱりなーという雄一とセンタ。
小林さんに依頼してきたのは、ある病院の医院長、彼は、此の犯人の甥御さん。彼は自分の父親の死に不信感を抱いていて、それを調査、それが、昭和に起きた殺人事件とつながりがある様なんだと言ってきていたんだ。
今回は俺の方がみんなより先に話を聞いてるんだよねー。
リークは山田さん、ざま―見ろ。
皆でその資料を集めた。
「あれ?この人、さっきのイケメンに似てる」
「ああそれだ、中を見てくれ、そっくりだと思わないか?」
「ワー、本当だ、でもこれ年代が違うよ?」
センタが先に見ていた方を持ってきた。
「昭和三十八年?そっちは?」
「四十五年だよ、ん?」
「何で?模倣犯?」
「まさか?こっちは東京で、こっちは神奈川だな」
「東京は葛飾、平塚?なんで?」
「見て、こっちも下着だって」
「あ、でもこっちは遺体が出てきてる、十二人だって」
十二人、きもー。
「ちゃんと読んでくれよ」
俺はシュレッダーの前に座りいらないものを裁断中。
「じゃあ読むよ、昭和四十五年神奈川県平塚で起きた殺人事件は意外な形で幕を閉じた」
当時、小学生だった男の子が落とし物だと持ってきた指輪が二つ。それは結婚指輪で、新婚数カ月で行方が分からなくなっていた、伊藤明、和子夫妻の物だと判明。
すぐにその指輪を見つけた場所に急行すると、その近辺から、ベルトや時計、中身のない財布などが見つかりさらに捜査を進めた。白骨死体が十二体、綺麗に並んだ状態で出てきた。
「そのほとんどが漂白剤で洗われ、衣服をきれいにかけられた状態で見つかったと言う」
漂白剤?
骨だろ?骨を洗ったのか?何のために?わかんねえよ。
「わかったのはこの夫婦だけ?」
「ウウン、三体だけわからなかったみたい、ほら見て?」
写真を見る。
「男性だな」
「衣類だけはな、骨格は女性と書かれている」
「また、オカマとかの部類かよ」
「なんだかなー、こんなのばっかり」
「たまたまなんだろうけど、下着が問題かもな」
どういうこと?
「もし、これが女性の下着をつけていたら、女装だろ?」
「今なら考えられるけど、当時はどうだったのかな?」
「まだ昭和の時代が濃い頃だからな」
失礼します、お茶をと言って入ってこられた内藤さん。大きなため息とともに、部屋の現状を見て、はーともう一つ、片付けているのやら、散らかしているのやらと言いながらワゴンの周りに集まった俺たちは勝手に手を伸ばした。
その後ろから、やっと終わった―と伸びをしてはいってきた現代のイケメントリオ。
何やってんだ?に、雄一の終わったの声。
何が終わったんだと絡む後藤さん。センタが先輩たちにひと通り話していく。
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