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ミンとラスカ
「よかったですわ。いま、ラスカが探しにいっているんです」
「ええ?申し訳なかったわ。湖の美しさにみとれてしまって、ついつい」
「ご無事でほんとうによかった。ラスカのことなら、大丈夫です。じきにもどりますから」
「でも……」
「あらまあ、シャツの裾、どうされたんですか?」
そのとき、玄関の扉がひらいてラスカが駆けこんできた。
かれも六十歳をすぎているけど、かっこよくってとても素敵な容姿をしている。
いまだにシャツに蝶ネクタイ、ピシッとした黒色のズボンを身につけている。
「お嬢様、おもどりでしたか」
かれは、わたしをみてほっとしたようね。
「心配をかけてごめんなさい。これから気をつけます」
二人に頭を下げた。
なんの反応もないので頭をあげると、二人とも驚いた表情をしている。
「これから気をつけます」
もう一度宣言しておいた。
「え、ええ。ええ、ええ、いいんですよ。ただ、夜になると魔物や賊の類がでてこないともかぎりませんから」
ミンがやさしくわたしの腕をなでてくれた。
「さあ、夕食にいたしましょう。シャツはお着替えください」
「なんとかならないかしら?たとえば、長さをそろえて帳尻をあわせるとか」
前の右側の裾を破きとっちゃただけだから、あともおなじ長さに切ってしまえばまだ着ることができるんじゃないかしら?
「マナ、様?」
ミンが当惑したように呼びかけてきた。
やっぱり、そんなにうまくはいかないわよね?
「まるでミナ様のようなことをおっしゃられて」
ミンはくすくす笑いはじめた。
「ミナ様は、服が破けてもけっして捨てようとされません。そのつど、わたしが繕っていました。わかりました。なんとかしてみましょう」
「ありがとう、ミン」
それから、ミンのおいしい夕食をお腹いっぱい食べた。
でも、食事中もずっとかれのことが頭にちらついてはなれない。
夕食後、お風呂に入ってベッドに横になってもまだかれのことが頭からはなれなかった。
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