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ナダルとの再会
あ、時間だわ。
慌てて部屋をでて、そのときはじめて気がついた。
この部屋、わたしが使っていた部屋だということに。
妹の部屋ではなく。
まっ、仕方がないわ。
ミンになにかきかれたら、「お姉様の部屋の方が景色がいいんですもの」っていえばいい。
実際は、妹の部屋の窓からは湖がみえる。妹が、こっちの部屋の方がいいというので、わたしはいまの部屋にしたんだった。
そして、小走りでかれとの約束の場所へと向かった。
昨夜の場所にいたったとき、ちょうど向こうからかれがやってくるところだった。
かれは、白馬の手綱をひっぱっている。
その白馬にだれかが乗っているのをみ、当然のことながら驚いてしまった。
その威風堂々とした乗馬姿は、あきらかに貴族だわ。
「ミナッ!」
かれもわたしを認めたらしい。手を上げ、それをぶんぶんと振っている。
思わず手を振りかえしかけたけど、馬上の紳士のことが気になってやめてしまった。
かれは、昨日より輝いて見える。それは、昼間で明るいからというわけではない。
かれ自身の魅力で輝いている。
なに?わたしったら、なにを思っているの?
顔が火照るのを感じる。
かれをしばらく見つめてから、あらためて馬上の紳士を観察した。
もちろん、さりげなくだけど。
華美ではないけど、ブラウン色の上下の乗馬服に同色の帽子がよく似合っている。顔は、控えめにいっても男前。年齢は、三十歳前半くらいかしら。
姿勢もよく、その乗りこなしは乗馬に慣れていることがうかがえる。
「こんにちは、ミナ。きみのおかげで、かれもぼくもたいしたことにならずにすんだ。あらためてお礼をいわせてほしい」
かれはわたしのまえまでくると優雅に一礼した。
白馬が牡馬だということがわかった。
「こんにちは、ナダル。傷や打ち身はどう?」
「たいしたことはないよ。ちょっと痛みが残っている程度かな」
そのとき、馬上からちいさな咳払いがきこえてきた。
「あ、これは失礼いたしました」
ナダルが馬上を見上げたと同時に、馬上の紳士がさっと地面に降り立った。
「ミナ、この方はぼくのご主人様なんだ」
ナダルは、どこか誇らしげにいった。
「セレス・ライオットと申します」
紳士は胸に手を当て軽く頭をさげてから、わたしの手をとって甲に口づけした。
えええっ?ライオット侯爵様?
どうしましょう。
心のなかは動揺しまくっている。
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