セレス・ライオット侯爵

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セレス・ライオット侯爵

 でも、かんがえてみれば、ナダルは侯爵様の馬丁。かれがひく馬に乗っているのは、侯爵様以外にかんがえられないわよね。  って冷静に納得している場合じゃないわ。  どうするの?どうしたらいいの、わたし? 「あの、セレス・ライオット侯爵様?」  とりあえず、確認してみた。わかってはいるけど、ただの時間稼ぎというわけ。 「ええ。まったくそうとはみえないだろうけど、一応そのような爵位をいただいている。もっとも、代々受け継がれている爵位。わたしの力によるものではないんだけどね」  侯爵様は、姿勢を正すとさわやかな笑みを浮かべた。  ナダルほどではないけれど、それでも頭上の太陽のようにまぶしい。 「あの、ミナ・フォードでございます」  どうにでもなっちゃえ。  メイフォードのメイをかぎりなくちいさく、それこそ口のなかでいい、それ以外は口の外にだして名乗った。 「はじめまして、ミナ。わたしの馬丁のナダルとレウコンを助けてくれて、わたしからも礼をいわせてほしい」 「そ、そんな……」  驚きが重なりすぎて対処しきれない。 「昨夜の話をナダルからきいてね。今日、あらためてお礼をいうつもりだというので、わたしもぜひ礼をと思い、不躾だがついてきてしまったというわけだ」 「は、はあ……」  自分でもお間抜けだと思いつつも、「はあ」くらいしかでてこない。 「きみさえよければどうかな?屋敷に招待したいのだが」 「ええ、い、いまからですか?」  あの湖の向こうのお屋敷に?  というよりかは、侯爵様のお屋敷にわたしが? 「あっもしかして、仕事の合間にきてくれたとか?ごめん。昨夜は舞い上がってしまって、きみの都合もかんがえないで勝手に決めてしまった」  ナダルがすまなさそうにいってくれたけど、そういうことじゃないのよね。 「いえ、いいえ。大丈夫です。今日はたまたまお休みをいただいています」  とりあえず、無難な答えをしておいた。 「では、ぜひ招待したい。とはいえ、男所帯だから、たいしたおもてなしもできないのだが」 「ですが、侯爵様。わたし、このような恰好ですので」  乗馬用のシャツにベスト、ズボンをみおろしながらいった。  とても侯爵様のお屋敷にうかがうような恰好じゃないんですもの。 「恰好?」 「恰好?」  侯爵様とナダルはおたがいの顔を見合わせた。
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