全力で馬の話

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全力で馬の話

「あのおおきくて立派な厩もですが、レウコンもあそこにいる黒馬も数ある馬の品種のなかでも最高の品種といわれている、大国エネルーク国のアウトクラトラス種ですよね。この品種を乗りこなされていらっしゃるのです。お好きというよりかは、馬に命をかけていらっしゃると申し上げてもいいかもしれません」  アウトクラトラス種は、大国エネルークにしかいない品種である。気性が荒く、人間(ひと)にめったに慣れることができないことから、調教もかなり難しいといわれている。しかし、その走りは、馬の品種のなかでも頂点に立つほど速い。持久力もあるし、力強い。  っていうか、わたし、なにをいっているのよ?もうっ、信じられない。  普通のご令嬢は、馬の蘊蓄を語りまくらないわ。  いやだわ、まったく…‥‥。  侯爵様もナダルもひいているじゃない。  二人とも立ち止まり、ポカンとした表情でわたしをみている。 「まぁ……。大変失礼いたしました」  慌てたふためいた様子を装い、頭をさげた。 「ご主人様がおっしゃっていたのをききかじっていましてつい……」  この笑み、気弱そうにみえるかしら? 「いやはや……。驚いてしまった。きみのいうとおりだよ」 「うわー。ミナ、きみはすごいんだね。ぼくも勉強はしているんだけど、まだまだだと侯爵様に叱られてしまうんだ」 「ほんとうに、大変失礼いたしました」  ダメよ、ダメだめ。  馬の話題からなにかほかの話題にかえないと。  日頃、年齢のちかいご令嬢やご子息などはもちろんのこと、あらゆる世代の貴族の方々とお話などめったにしない。  テリー?  あれ(・・)とは、会話のうちに入らないわ。  とにかく、話題がみつからない。  お天気?  いまさらって気がするし……。  そうだわ。お屋敷のこととかお庭のこととか、とにかく褒め称えるのよ。  あせればあせるほど、なにを話せばいいかわからなくなってしまう。 「侯爵様、こんな立派な厩ははじめてでございます。設備も整ってらっしゃるんでしょうね。みせていただいてもよろしいでしょうか」  わたし、なにをいいだすのよ。  自分でも愕然としてしまった。  どうして?褒め称える対象が普通じゃなさすぎる。  馬の話からそらさなきゃ、なのに、これだと思いっきり全力で馬の話じゃない。
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