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どうなっているの?
えっと……。
わたしは混乱している。
なぜなら、毒殺されたはずなのに生きているから。
さらには、妹のマナになっていて、しかもときをさかのぼっているから。
妹の部屋の窓から、庭の東屋で婚約者のテリーとわたしの両親が、ティータイムを楽しんでいるのを眺めている。
なんと、わたしもいる。
どういうこと?
わたし、毒殺されたわよね?
妹の部屋にある姿見を何度見なおしてみても、そこに立っているのはたしかにマナ。
どこからどうみても、妹のマナ。
これはいったい、どう解釈したらいいのかしら?
いまの状況もだけど、|まえ(・・)の状況もさっぱりつかめない。
わたし、どうして毒殺されたの?
マナは、どうしてわたしを毒殺したの?
テリーはどうしてあそこにいたの?
っていう以前に、二人でわたしを毒殺したというわけなの?
厳密には、わたしは死んでいない?
そうよね。だって、こうして立っているんですもの。かんがえているんですもの。
ただ、その姿は妹のマナで、過去にいるみたいだけど。
それでも、わたしはわたし?わたしっていうのかしら。
妹の部屋をいったりきたりしながら、混乱しまくっている頭と心を整理してみようとがんばってみた。
だめ。まったくできない。
そのとき、部屋のドアがひかえめにノックされた。
「ど、どうぞ」
とりあえず、そう返事するしかない。
すると、ドアが音もなくひらいた。って認識するよりもはやく、だれかがササッと入ってきた。
「テ、テリー?」
それは、まぎれもなく婚約者のテリー・ライアットだった。
「マナ、愛しいマナ」
かれはすばやくちかづいてくると、わたしを引き寄せギュッと抱きしめた。
ちょっ……。
驚きのあまり、叫びそうになった。
こんな熱い抱擁、いままでに一度だってしてくれたことがない。
それどころか、手にキッスすらめったにしてくれなかった。
両親がみているとき限定である。
さらには、会うことすらほとんどなかった。
両親がお茶や夕食会に招待するか、「どこそこにいってくれば」とすすめるときくらいだった気がする。
でも、たとえいっしょにいるときですら、物理的にも精神的にもわたしたちには距離があった。
かれにはちかづきがたいなにかがあったし、わたし自身にもそれがあったかもしれない。
それなのに、それなのに、このいまの抱擁はなに?
まだつづく抱擁に当惑していると、かれはいったん姿勢を正した。
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