諍い

1/1
前へ
/45ページ
次へ

諍い

「その……。きみはもう、ここにはきてくれないのかい?」  メランから降りると、ナダルがちかづいてきた。 「ナダル」  侯爵様もちかづいてきた。  二人ともすごく真剣な表情をしている。 「ミナ、ぼくがメランと信頼関係を築くまで、いや、ちがった。ぼくは、きみとも信頼関係を築きたいんだ」 「ナダル、だめだ。身分をかんがえろ」  侯爵様がかれの肩をつかんだ。 「身分?それがいったいなんだっていうんだ?だったら、あなたは?あなたこそ、身分の差にくわえて年齢の差がある。それこそ、かんがえたらどうなんですか?」 「年齢の差?とにかく、だめだ。軽々しい感情で彼女をふりまわすな」 「軽々しくなどない」  な、なに?突然のケンカ?  それも、わたしのことで?いったい、なにがどうなっているの?  わたしがメランを乗りこなしたから? 「あなたこそ、年の離れた彼女ならあつかいやすいと、弄びやすいとかんがえているでしょう?」 「そんなことはない。わたしを侮辱するのか?わたしの彼女にたいする想いは真剣だ」 「だったら、ぼくだってそうだ。あなたに負けやしない」  叫びあうなり、二人はおたがいの胸倉をつかみあった。 「ブルルル」  メランが怯えてしまっている。 「メラン。ごめんなさい。大丈夫よ。落ち着いて」  かれの首筋と鼻面をやさしくなでながら、話しかけた。 「わたしのほうが想いはおおきくてひろい」 「いいや、ぼくのほうがもっとおおきくてひろい」  二人は、どんどん興奮してゆく。 「いいかげんにしてくださいっ!メランが怯えています」  気がついたら、叫んでいた。  わたしったらもう、馬のことになると見境がなくなってしまうんだから。  おたがいの胸元をつかみあっていたけど、同時に動きがとまった。  それから、おどおどとした様子でこちらを向く。 「みてください。馬は、あなた方とちがってとってもデリケートなんです。せっかくここまで人間(ひと)のことを信頼してくれるようになったのです。かれの信頼を裏切るようなことはやめてください」  メランの鼻面をなでながら、きっぱり言ってしまった。  ダメだわ。わたしったら、馬のこととなるとついムキになってしまう。  そういえば、昔は妹のことでもムキになっていたわね。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

378人が本棚に入れています
本棚に追加