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侯爵様とナダルとわたし
お母様も同様。そして、お母さまはわたしより器量よしの妹が可愛く、よりいっそうの玉の輿を期待されていた。
あ、過去形になってしまっている。
実際は、どちらもまだ生きていらっしゃるのよね。
そういえば、二人が死んだのは冬だったわね。そうだわ。もしかして、この冬じゃないかしら。
お父様とお母様が死んだとき、わたしはただただ妹のことだけかんがえ、必死だった。だから、突然のことで驚きはしたものの、涙一つ流していない気がする。
「ミナ、どうしたの?」
ナダルに呼ばれ、慌てて意識を戻した。
まあ、わたしがこうして生きているんですもの。お父様とお母様も大丈夫よね。
「ごめんなさい。ちょっと考えごとを……」
「ははは。ナダル、きみの話が面白くないからじゃないのか?」
「セレス様、あなたの話がでしょう?」
「ちがうんです。お話は、いつも面白いわ。ほんとうにごめんなさい」
「気にしなくっていいよ。おっとそうだ。暖かくなったら、もっと遠出してみないかい?春になれば、仔馬が産まれる。隣国の市で競りがおこなわれるんだ。エネルーク国の国営の競りにくらべればたいしたことはないが、それでもけっこういい仔馬がでていたりする。どうだい、ミナ?きみなら興味があるだろう」
「ええ、とっても」
「では、きまりだな」
「ぼくもいってもいいですよね、もちろん?」
ナダルが尋ねると、侯爵様は口をひらきかけたけどなぜかとじてしまった。
それから、意味ありげに吐息をついた。
「わかっています。わかっていますよ。だけどあともうすこし、あともうすこしいさせてください」
「仕方がないな。ナダル、きみはきみのなすべきことをすべきだと思うがね」
「だから、わかっていますって。もうすこしでその勇気をもてる気がするんです。だから、お願いです」
謎めいた会話を、わたしはなんとなくきいていた。
わたし自身、この冬のあとどうなるか正直わからない。
そんなことをかんがえてしまっていたからである。
「じつは、かれにはちゃんとしたご主人がいてね。ここには、いわゆる修行にきているんだよ」
「そのご主人様は、王都にいらっしゃるの?」
侯爵様の説明をきいて、ナダルに尋ねてみた。
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