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テリーってバカすぎる
「ライアット家の子息だな?」
つぎは、侯爵様がレウコンをすすめた。
おなじ侯爵家でも、いま現在の当主で侯爵の地位にある侯爵様と侯爵子息とでは意味がまったくちがってくる。
「彼女とどういう関係かはわからないが、ずいぶんと身勝手なことを申すのだな。彼女は、迷惑そうだが?無理矢理にでも連れてかえろうというのかな?」
穏やかな口調だけど、声の質はこれまでにきいたことのない鋭さを感じる。
ナダルとケンカをしているときでさえ、こんな鋭い声だったことはない。
テリーは、へらっと笑いながら顔を上げて侯爵様をみた。
「おっさん、邪魔なんだよ。ぼくと彼女の邪魔をするな。おっさんこそなんだ?彼女の色香にほだされたのか?彼女、色っぽいもんな」
「やめて、テリー。この方は、セレス・ライオット侯爵様よ。あなたなんかより、よほど立派な方なの。侮辱しないで。それから、わたしはあなたとはかえらない。あなたとの関係はもうおしまいよ。王都にもどって婚約者、いえ、お姉様とおしあわせに」
プルルスをすすめ、かれのまえに立てると見下ろして毅然といってしまっていた。
でも、わたしが色っぽい?
そこだけは笑いそうになっちゃったけど、侯爵様を侮辱したことはぜったいにゆるせない。
「な、なんだって?マナ、いったいどうしたっていうんだ。こんな田舎臭い辺境の地で、田舎貴族になにかせびったのか?」
テリーはバカすぎる。バカすぎて、言葉がでない。
「馬になんか一度だって乗ったこともないくせに、一丁前に乗馬ごっこか?きみはぼくのすべてに惚れているんだから、ぼくのいうとおりにすればいいんだ」
かれは傲慢きわまりないことを叫んだ瞬間、手をのばしてきた。
わたしの足をつかもうとしている。
『ガツッ!』
ひきずりおろされないようプルルスの首にしがみついたのと、鈍い音が耳に飛び込んできたのが同時だった。
おそるそるかれのほうを見ると、かれが宙をゆっくり飛んでいる。それはもうゆっくりと。放物線を描きながら、ゆっくりゆっくり舞い、それからぬかるんだ道にどさりと落ちた。
「ぼくが剣をもっていなかったことを、神に感謝するといい」
いつの間にかメランからおりたナダルが、プルルスとわたしをかばうように立っていた。
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