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テリー 退散する
「ライアット家の馭者よ。さっさとそのろくでなしを連れて王都へもどれ。不満があるなら、セレス・ライオットに侮辱されたと王族にでも訴えよ」
手綱を握る手が震えている。
侯爵様の一喝で、ライアット家の馭者が馬車から転げるようにおり、ぬかるみで倒れたまま動かないテリーを抱えて馬車におしこんだ。
ナダルがプルルスの銜をつかみ、やさしく道の端によせてくれた。
すると、ライアット家の馬車が狂ったように駆け去っていった。
その間、わたしはさっきのショックが抜けきれずにプルルスの背でガタガタと震えていた。
「ミナ」
「ミナッ!」
そんなわたしを、二人は協力してプルルスからおろしてくれた。
「ミナ、大丈夫かい?」
「ミナ、すまない」
ナダルが地面に両膝をつき、わたしを抱いてくれた。
侯爵様は、上半身をナダルに抱かれたわたしの手を握ってくれる。
「だ、大丈夫です。大分と落ち着いてきました」
「よかった。それにしても、なんと身勝手で傲慢な男だ」
侯爵様は、憤っている。自分のことのように怒っているそんな侯爵様をみながら、これまでだましていたことが情けなく、また罪悪感に苛まれてしまう。
「ナダル、きみは……」
「わかっています。彼女が傷つけられようとするのをみて、体が勝手に動いたんです」
「なんのための修行だね?身分をわきまえなければ……。もっとも、きみがやらなければ、わたしがやっていただろうがね。そうなれば、もしかするともっとひどいことになっていたかもしれないし。気絶程度じゃすまないくらい、ひどいことにね」
驚いて侯爵様をみると、かれはやさしい笑みを浮かべた。
「すまなかった。男っていうのは、いろいろな意味でダメだな。だが、うれしかったよ、ミナ。わたしのことで怒ってくれて」
そのやさしい笑みに、わたしもつられて笑みを浮かべてしまったが、ひきつった笑みにならなかったかちょっと不安でもある。
いえ……。そんなことよりも、二人を巻き込んでしまった。事情を説明するしかない。そして、謝罪しなければ。
こんな話、信じてもらえないかもしれない。だけど、誠心誠意言葉を尽くして伝えないと、かれらにたいして申し訳が立たない。
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