なぜかお腹はすいている

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なぜかお腹はすいている

「ミナ?ミナじゃないか」 「ミナ、こんな早朝にどうしたんだい?」  二人が同時に気がついて、こちらに駆けてきた。 「侯爵様、ナダル、すごいんですね。感動してしまいました」  かれらみたいに一礼してから、正直な感想を述べた。 「いや、たいしたことはないよ。ぼくは、まだまだ修行中でね。だけど、セレス様はこうみえても……」 「ナダル、やめなさい。そんなものは、過去の野蛮な行為にすぎないからね」 「野蛮?あなたのやってきたことは……」 「ナダル、いいのだ」  侯爵様は、ナダルの肩を軽く叩いてからわたしに視線を向けた。  いつもとちがい、どこか寂しそうな困っているような、そんな表情にどきりとしてしまう。 「ミナ、わたしたちになにか話があるんじゃないかい?」 「はい、侯爵様」 「じゃあ、とりあえず朝食にしよう。食べながら話をきくよ」  朝食ときいて、昨日はたいしたものを食べていなかったことに気がついた。  なぜかはわからないが、侯爵様とナダルをみた瞬間、急にお腹がすきはじめた。 「グルルル」  そのタイミングで、急にお腹がなりはじめた。しかも、控えめにではなく、盛大に。 「体は正直だよね。ぼくも腹がぺこぺこだよ。じゃあ、きみのために特製のオムレツをつくろう」 「ナダル、ナダル。頼むから、今日こそ卵を焦がさないでくれよ。いったいどうやったら焦げたオムレツができあがるのか、不可思議でならない」  ナダルをたしなめる侯爵様のいい方がおかしくって、ついつい笑ってしまった。  それから、朝食をいただいた。  パンにチーズに焦げたオムレツ、ベリージャムの入ったヨーグルト。紅茶にあたためたミルクを入れ、隣国でとれたという柑橘類もいただいた。  どれもとってもおいしい。  侯爵様の予言通り、ナダルのオムレツはまんべんなく焦げ目がついていた。  それでも、塩加減が絶妙だし、ミルクを入れているのでふわっと感がある。  ちょっとこうばしいって感じかしら?  お腹いっぱいになるまで、一言も会話をかわすでもなく食べてしまった。  正直をいうと、食べはじめるとお話のことはふっ飛んでしまった。だから、ついつい必死に食べてしまったわけ。    朝食がおわってから、ハーブティーを書斎に運んでそこで話をすることになった。   ローテーブルをはさんで、侯爵様が一人で向かい側の長椅子に、ナダルとわたしが並んで座るといういつもの定位置。  これも、今日でおしまいなんだと思うと、ちょっと寂しくなってしまう。
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