377人が本棚に入れています
本棚に追加
王都に戻ります
「ごめんなさい……」
そう謝りかけたとき、わたしの手を握るナダルの手に力がこもった。
「謝る必要なんてなにもないさ。それよりも、きみがどれだけ不安で寂しかったかということをかんがえると、胸が痛くなってしまう」
ナダルのほうに体ごと向くと、かれの真摯な顔がわたしをじっとみている。
「ナダルのいうとおりだよ、ミナ。わたしたちは、きみのいうことを信じている。その上できいてほしい。わたしは、いまここにいるきみのことを、その、なんだ、そう気に入っている。過去のきみのことではない。いまのきみだ」
侯爵様もまた、真摯な表情でわたしをみつめている。
「セレス様のいうとおり。ぼくもそうだよ。あの夜、レウコンから振り落とされたぼくを助けてくれてから、いままでのきみのことを、あの、その、そう大親友、大親友だと思っている」
ナダルの手がとってもあたたかい。
「侯爵様、ナダル、ありがとう。そのお気持ちが、わたしに勇気をあたえてくれます。これで、心おきなく王都にもどれます」
「心おきなく王都にもどらなくってもいい」
「心おきなく王都にもどらなくってもいいじゃないか」
二人でいっせいに叫んだので驚いてしまった。
「きみを一人でもどらせるのは……。そうだ、ぼくももどる。うん。ぼくもいく」
「な、なんだって?ナダル、きみが?ついこの間まで、まだもどらないと……」
「セレス様、ミナの話をきいたでしょう?あの胸くそ悪いライオット侯爵子息のこともだけど、ミナの妹?っていうか姉、どっちでもいい、とにかく、なにをされるかわからない。護衛が必要だよ」
「ちょっとまて、ナダル。いまのはわざとか?ライオットではない。ライアットだ。ライオット家に人の婚約者を寝取ったり、遺産を狙ったりするような者はいない」
「あ……、ははは、バレました?」
「まったく」
あいかわらずの二人のやりとりに、また笑みをこぼしてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!