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意味がわからないわ
「きっと驚くぞ。彼女、ぼくにまいっているからね。もしかすると、ショックで倒れてしまうかも、だね。しばらく寝込むことになるかもしれない。彼女、ほかにあてはあるのかな?まぁこの王都には、ぼくほどかっこよくも名門ではないにしろ、貴族子息はいくらでもいる。もしかすると、子爵や男爵クラスなら、彼女と付き合ってやってもいいっていう、もの好きがいるかもしれないね」
まださえずりつづけている。自称男前の顔をみながら、だんだんいらいらしてきた。
「何より、馬臭い。馬糞に塗れまくっているだろう?あれが公爵令嬢っていうんだから、笑ってしまう。やはりマナ、きみみたいに清楚でお淑やかじゃないと」
わたしは、正直なところ妹ほどきれいではない。でもそこまでひどくはないと思っている。
それにメイフォード家は、代々王族の馬の管理や調教、王族の方々の馬術指南を任されている唯一の家系。
馬臭くて当たり前よ。
清楚でお淑やかだったら、たとえおとなしい馬にすら跨がれないわ。
「どうしたんだい、マナ。今日はずいぶんとおとなしいんだね。いつもだったら、きみも姉さんの悪口を声高にいうのに。それこそ、きこえてはまずいからとめなきゃならないほどなのに」
なんですって?妹までおなじようにわたしのことを?
くらくらする。いろんな意味でショックだわ。
そりゃあ、ガミガミいいすぎたかもしれない。厳しいこともいったかもしれない。
でもそれは、ひとえに彼女のためのことを思ってのことよ。
妹がしあわせな人生をあゆめるよう、一生懸命になっていただけよ。
それを、声高に悪口をいう?
「ご、ごめんなさい。今日は、今日は調子が悪いみたい」
「え、どうしたの?風邪かな?ああ、もしかして、ガミガミいわれすぎてストレスでもたまっているんじゃないかい?だったら、きみが体や心を病むまえに、それこそ姉さんをどうにかしなきゃ、だよね」
「とにかく、今日はかえってくれないかしら?お願い」
「わかったよ。じゃあ、お別れの口づけだけでもさせて……」
「うつすといけないから。ごめんなさい」
「かまわないよ、愛するきみの風邪くらい」
ゾッとするほど甘ったるい声に、背筋に寒いものがはしった。
同時に、生まれてはじめて他人に平手打ちを食らわしてやりたいって手を上げかけた。
かろうじて、理性がそれをおしとどめた。
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