うそ……ナダルって……

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うそ……ナダルって……

「なんなのよ!なにが「(ドラゴン)の騎士」よ。ほんものの「(ドラゴン)の騎士」が、どうしてこんなあばずれの味方をするのよ。おかしいわ」  妹は役人たちの手を逃れ、こちらに向かって駆けだした。 「あんたなんか、あんたなんか殺してやる。いまここで、わたしが殺してやる」  彼女がものすごい形相で迫ってくる。  そのとき、侯爵様がわたしの腕をつかんでひっぱり、うしろにしてかばおうとしてくれて……。 「きゃっ!なに?いたいっ」  だけど、妹はわたしのところまでくることができなかった。  ナダルが立ちはだかり、妹の腕をねじり上げてしまったから。 「いいかげんにしろ、ミナ・メイフォード。きみはもうおしまいだ。おそらく断罪される。処刑は免れない」 「な、なんなの?はなしなさい。奴隷の分際で、伯爵令嬢のわたしにふれないで」  ナダルのシャツとズボンは、早朝の侯爵様との剣の稽古のときのままだから、ヨレヨレで汚れてしまっている。  たしかに、貴族にはみえない。それでも奴隷の分際でって、いくらなんでもひどすぎるわ。 「ならば、ミナ・メイフォード。きみはぼくにたいして、そんなはしたなく無礼な言葉遣いはやめるべきだ」  ナダルは、低い声でいい返した。 「ぼくは、ナダル・レドモンド」  レドモンド?  この場にいるだれもが、その名をつぶやいた。  って、レドモンド?レドモンドって、あのレドモンド? 「国王ラダル・レドモンドの第一皇子だ。ミナ・メイフォード、きみのぼくにたいする侮辱だけで、きみは断罪されてしかるべきだ」  う、うそ……。  ナダルが、ナダルが第一皇子?次期国王?  妹が両親を殺害したということより、よほど驚きだわ。  ということは、断罪されるのはわたしも同様じゃない。 「だ、第一皇子……」  役人たちも妹もテリーもそれからわたしも、ただ呆けたようにかれをみつめている。  というか、驚きすぎてそれしかできない。 「マナ、いや、ミナ。だまっていてごめん」  役人たちが妹とテリーを連行してしまうと、とりあえず馬たちを厩に入れ、わたしたちはわたしの屋敷にはいった。  居間に入るとすぐ、ナダル、いえ、第一皇子がわたしの手を握ってきた。  恐れおおすぎるわ。  わたしは、いままでずっとかれに手を握られたり腕をさすってもらうのが大好きだった。  でも、いまはちがう。  第一皇子だなんて、雲の上のそのまた上の人ですもの。  こうしておなじ部屋でおなじ空気をすっている、ということすら不遜に思えてくる。
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