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ナダルのいいわけ
「どうしても、どうしてもいえなかった。いえば、きみはいまのきみのようになる。だから、告げることができなかったんだ」
「第一皇子様、これまでのご無礼をお許し……」
「やめてくれ、ミナ。お願いだ。ぼくらは親友だろう?きみには、これまでどおりナダルと呼んでもらいたいんだ」
かれに握られている手が痛いくらい。それほど、かれは必死になっている。
だまっていたとか、そんなことはどうでもいい。わたしだってだまっていたんだから。
そんなことは、どうでもいい……。
「ミナ、きいてほしい。かれは、王宮での生活を嫌っている。それで、わたしのところに逃げ込んできているんだ。剣の修行ということにしてね。まぁ実際、ちゃんと修行はやっているんだが。とにかくかれは、残りすくない自由な時間を、できれば王宮やしきたりやしがらみからはなれてすごしたかったんだよ。わたしからすれば、皇子のわがままだと思うがね」
「セレス」
「おおっと、皇子様。セレスに様をつけ忘れていますぞ」
「もうバレたのだから、主従のふりはおしまいだ。それよりも、ミナに嫌われてしまったよ」
かれの手が、わたしのそれからはなれた。
視線があった。
かれは、さみしそうで悲しそうで、そんな表情になっている。
その表情に、ドキッとしてしまった。
「セレスはぼくの剣術の師というだけでなく、大親友なんだ。だれよりも、かれが一番ぼくのことをよくわかってくれている。だから、かれとすごすのがよすぎて、王都にもどらなければと思いつつできないでいた。そんなとき、きみと出会ってしまった。ますますもどりたくなくなってしまった。そこで、ぼくはセレスに頼んで一芝居うってもらったんだ」
「第一皇子様……」
「ミナ。お願いだから、そんなふうに呼ばないでくれ。なりたくてなっているわけじゃない。だけど、ぼくは将来この国を守らなければならない。だからこそ、剣だって馬だって人並み以上にできるよう努力をしているつもりだ。自分勝手だが、せめてぼくら三人の間では、これまでどおりの関係でいてもらえないかな?」
言葉は悪いけど、叱られた仔犬がご主人に甘えようとしているみたい。
それほど、かれの必死さが伝わってくる。
将来に備える一方で、将来奪われるであろう自由も得たい。
その気持ちは理解できる。
かれの気持ちだからこそ、よくわかる。
それでも、それでもやはり、ほんとうのことをしってしまった以上は……。
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