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ひきこもってみる
「ごめんなさい。もうムリ」
つい本音がでてしまった。
「そうか、残念。だったら、ぼくはいくよ。つぎは、いつにする?夜、いつものところで会おうか?そうだな、明日か明後日。それでいい?」
なんて思いやりのない自分勝手な男なの?
わが婚約者ながら、まったくしらなかった。気がつかなかった。
かれは自分の思うようにならないからか、わたしをつきはなしてから背を向け、ドアにちかづいた。
「いつ調子がよくなるか、わからないわ。よくなるまでは、会わないでおき……」
って、いってもかれはきいてはいない。
ドアをすこしだけひらけ、入ってきたときとおなじように、スルリと廊下へ消えてしまった。
わたしが毒殺された理由がわかった気がする。
その答えを導きだすまで、わたしは部屋にひきこもった。両親ともわたし自身とも会わず、もちろんテリーとも会わなかった。
食事は部屋に運んでもらい、夜半、だれもが寝静まってから庭を散歩して外の空気を吸った。
日中、窓の外をみると、ときおり東屋で両親とわたし、それからテリーがティータイムをしているのをみた。あるいは、わたしとテリーだけで。
よくよく観察してみると、テリーは無表情でただ座り、ティーカップを傾け、お菓子やサンドイッチを頬張っているだけである。
わたしも同様である。ときおり、口をひらいているが、それはすぐに閉じられる。二言三言言葉を投げているだけのように見えなくもない。
わたし自身は、両親がいるときにはまだ言葉を発している。それは、テリーにというよりかは両親に話かけているようだ。
二人っきりのときは、それすら億劫でしないようにうかがえる。
テリーのことをいえないわね。
わたしが毒殺されてから一週間ほど経った日、部屋のドアがノックされた。
使用人のメアリーかと思ったが、返事をするよりもはやく、ドアが勢いよくひらいた。
そこに立っているのは、まぎれもなくわたし。
わたしは、すごい形相でわたしをみつめている。
ややこしい話ではあるが、元わたしがいまのわたしをみつめているといったほうがいいかしら。
「マナ、いいかげんになさい。あなたは、次期国王のお妃になるのよ」
元わたしがいった。
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