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わたしとの攻防
それは、恫喝といってもいい。
寝台のそばでかたまっているいまのわたしのことなど気にするでもなく、元わたしはまた口をひらいた。
「ひきこもっていてどうするの?さあ、王宮のマナー、それからそれにふさわしい教養を身につけるのよ」
そして、ずかずかと部屋に入ってきて、いまのわたしの腕をむんずとつかんだ。
「いくわよ」
それから、無理矢理ひきずりだそうとした。
「ま、まって。お妃になんてならないわ」
やっとそれだけ言えた。
「なにをいっているの?あなたがしあわせになるためなのよ」
元わたしは、眦をあげて断言した。
なにを言っているの?しあわせ?お妃になることがしあわせ?
だれが決めたの?そんなこと、あなたの勝手な思い込みじゃない。
心のなかで思ったが、その思いを言葉にしてだすことはできなかった。
「なにをしているの?ライバルはたくさんいるのよ。あなたはみてくれだけはいいんだから、第一皇子の目に留まる可能性は充分ある。あとは、内側をどうにかするだけよ。それであなたは、一生涯しあわせにくらすことができるのよ」
あいた口がふさがらない。
「ガミガミうるさいわね。わたしの人生でしょう?わたしのしあわせでしょう?あなたに指図される必要はない。あなたに強制されるゆわれはないわ」
思わず怒鳴ってしまっていた。
すると、元わたしの動きがピタリととまった。だけど、わたしの腕を握る手はそのままで、ますます力がこもった。
「なにをいっているの?わたしは、あなたのためを思って……。いつだってあなたのことを一番にかんがえ、あなたのためになるよう努力をしているのよ。子どものころから、いつだってあなたに、あなたのために尽くしてきた。それでなくても気分屋でわがまま放題なあなたが、機嫌よくいられるよう心を配ってきた。それをなんなの?どういうつもりなの?」
腕が痛い。元わたしの爪がくいこんでいる。
「そんなの勝手にやっているんでしょう?お節介だし、有難迷惑なのよ。とにかくでていって、ここからでていって」
いまのわたしは、半狂乱状態になってしまっている。
叫びながら握られていないほうの腕を上げ、拳をつくって元わたしをぐいぐい押した。押して押して押しまくって、ようやくドアの向こう、つまり廊下に押し出した。
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