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決意 そして屋敷を去る
「あなたって子は……」
やっと腕がはなれた。二度とつかまれないよう、さっと腕をひき、そのままドアのノブをつかんだ。
「バタンッ!」
屋敷中に響き渡るような音がした。
最後にみた元わたしの顔は、怒りで真っ赤になっていた。
元わたしは、これをずっとつづけていたの?
だとしたら、毒殺されても仕方がないかもしれない。
この日、ようやく結論にいたり、決意した。
いまのわたしが元のわたしを毒殺しないよう、それから、元のわたしから婚約者を寝取らないよう、この屋敷をでてゆくことを決めた。
そして翌日、慌てふためく両親と怒り狂う元わたしの前から去った。
メイフォード家の所有する別荘へ移り住むことにしたのである。
湖の畔をあるきながら、吐く息が白くなっていることに気がついた。
このあたりは、王都とちがって一足早く冬がくるのね。
別荘とはいえ、めったにくることはない。
二年に一度、夏の間に避暑に訪れる程度。だから、この時期にきたのははじめて。
落ち葉を踏みしめると、小気味いい音がする。
そういえば、子どものころには秋になったら庭の落ち葉を踏んでまわったっけ。
妹といっしょに。
あのころから、わたしは妹にガミガミいっていたのかしら?
盛り上がった落ち葉に、切り株が見え隠れしている。
腰をおろし、湖を眺めた。
湖の向こう側には、ライオット侯爵家のお屋敷がその偉容を誇っている。
たしか、現在の当主はセレス・ライオット様だったかしら?
貴族との付き合いや王都での暮らしを嫌い、辺境の地にあるあの屋敷にこもってしまってずいぶんと経つときいている。
そんな方だから、このあたりに別荘をもつ他の貴族と交流があるわけもない。
だから会ったこともないし、顔をみたこともない。
ちょっとかわっている侯爵様って、どんな方なんでしょう。
「ああ、寒い。とりあえず、かえりましょう」
思わずひとり言をいってしまった。
ここはあまりにも寂しすぎる。
湖にいた鳥さえ、どこかあたたかい地域に飛んでいってしまったのね。
立ち上がって乗馬服のズボンをパンパンと手ではたいた。
わたしは乗馬が大好きで、どんなお転婆な牝馬ややんちゃな牡馬でも乗りこなすことができる。だけど、妹はまったく苦手。つまり、フツーに跨ることすら怖がってしまってできない。
だからこそ、ちいさいときに手とり足取り教えてたのに……。
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