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白馬が駆けてくる
メイフォード家は、代々王族の馬の管理と調教、それから王族の方々に乗馬を教えることを任されている。
娘といえど、まったく乗れませんでは通用しない。
メイフォード家の家門に泥をぬることになる。
それなのに、妹は真剣に取り組むことすらしなかった。
レディたるもの、乗るなら馬車でしょう?といって。
わたしたち姉妹にお兄様か弟がいれば、それでもいい。
だけど、お兄様も弟もいない。だから、どちらかがお父様のあとを継がなければならない。
わたしが継ぐことになる、予定だった。毒殺されるまでは。
ということは、父も亡くなっているしわたしも死んだら、結局は妹が継がなきゃならないじゃない。
あの子、なにをかんがえているのかしら?
わたしの婚約者のはずのテリーが、そこまで馬のことに詳しかったり乗りこなせたりできるとは、とうていかんがえられないんですけど。
きっと、なにもかんがえていなかったのね。
メイフォード家、いったいどうなるのかしら?
そんなことをかんがえていたものだから、いつの間にか湖の畔の小道から馬車道をあるいていた。
しかも、別荘とは反対方向にむかっている。
わたしったら……。
思わず苦笑してしまった。
反転しようとして湖の方へ向くと、湖面が夕陽の色に染まっていることに気がついた。
すっごくきれい。
しばし、その真っ赤にきらめく湖面を見つめてしまった。
あまりの美しさに、しばらくそれを見ていたしていたものだから、足の底から冷えてきた。
さあ、はやくかえらないと。
別荘の管理人であるベルモント夫妻に、心配をかけてしまう。
湖から目を引き剥がそうとした瞬間、遠くの方から馬の駆ける音がきこえてきた。
って思う間もなく、馬車道の向こうの方に白馬が一頭あらわれた。
こちらに駆けてくる。しかも、だれも乗っていない。
背には鞍を、口には銜を装着している。
そして、馬の蹄の音にまじって、「まてーっ!まってくれ」という声がきこえてくる。
間違いない。あの白馬は、乗り手を振り落としたのね。
きっと、なにかに驚いてしまったのね。
ときどきあることだわ。
勝手に体が動いていた。
全速力で駆けてくる白馬のまえに、ゆっくりとした足取りででてみた。
「大丈夫よ。落ち着いて」
馬蹄の響きに負けずに、白馬にやさしく語りかけてみた。
両腕をブンブン振りまわしたりなんていう、おおげさな動作は、かえって馬を驚かせてしまう。
だから、ゆっくりゆっくり馬の方にあるいてゆく。
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