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人も駆けてきた
「ほら、大丈夫でしょう?あなたも速度をゆるめて。ゆっくりゆっくりよ」
何度もやさしく呼びかける。
すると、白馬は興奮からすこしずつさめはじめたみたい。
ギャロップからキャンター、速足になって常歩になったころには、ちょうどわたしのすぐちかくにまで迫っていた。
「いい子ね」
手綱をつかんで鼻面をやさしくなでながら、この白馬がすごくいい馬であることに気がついた。
それこそ、王宮にいるような馬だということに。
よかった。すっかり落ち着いたみたいね。
白馬は、おとなしくなでられている。
「おーい!」
そのとき、白馬がやってきたとおなじ方角から、手をふりながらだれかが駆けてきた。
白いシャツに乗馬ズボン、それから乗馬帽をかぶっている。
帽子以外は、わたしとまったくおなじ恰好ね。
ちかづいてくるにつれ、かれがけっこうな男前だということに気がついた。
燃えるような赤い髪をしている。
「よかった。もしかして、きみがつかまえてくれたのかい?って、ケガはしなかった?」
白馬の背後にちかづくのを避け、わたしのまえにやってきた。
かれは、二度三度おおきく息を吸ったり吐いたりして、ようやく息が整ったみたい。
「ええ、大丈夫です。姿がみえたときには、大分と落ち着いていました」
「きみにケガがなくってよかった。全速力で駆けていってしまったから。かれの顔にコウモリがぶつかってね。この辺り、おおいんだ」
男前の顔にほっとした表情が浮かんでいる。
かれは白馬の鼻面をなでながら、事情を説明してくれた。
「あなたこそ、大丈夫ですか?お尻と背中に泥がついています」
白馬はコウモリに驚き、棹立ちになったのね。かれは、背中から地面に落ちてしまったってことになる。
「あ、ああ、大丈夫。ててっ……」
かれは、お尻の泥を払おうとしてどこかが痛くなったみたい。
「肘のところ、すり剥けて血がにじんでいます」
シャツの袖をまくり上げ、むきだしになっている肘を指さした。
「本当だ」
「そこに座ってください」
馬車道の脇にある切り株を指さしながらいうと、かれは素直にしたがった。
白馬の手綱は、すぐちかくの木に結び付けておいた。
それから、乗馬ズボンのポケットからハンカチをとりだした。
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