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村長がにやにやとしながらこう言います。
「おい、反省したか。今、村の男衆とオヤクメサマが来てくださったぞ。ちゃんと、反省したなら謝りなさい」
箱の中の声は、一度沈黙した後。途切れ途切れに話し始めました。おそらく、泣いているのでしょう。嗚咽交じりの音でした。
「ごめん……なさい。ごめんなさい。オヤクメサマ……オヤクメサマに選ばれたのに……抵抗して……ごめんなさい……逃げて……我儘を言ってごめんなさい……どうか……許して……許してください……」
「本当に反省しているのか」
「してます……出してください……出して……」
「こう言っていますがね、オヤクメサマ。どうしましょうかねえ……。ねえ、みなさん?オヤクメサマの夜伽の役目も満足にできない癖に……二度も村から逃げ出そうとした男に折檻していますが……このまま出してもいいもんでしょうかね……ちゃんと反省しているのかどうか疑わしいですからねえ」
村長が男衆にそう問うと、みんな口々に話し始めます。
「まだぬるい」
「誠意を見せろ」
「あと一日は箱の中に入れておけ」
村長は箱の中にこう、呼びかけます。
「みんなはまだ、箱の中に入れておけと言っている。どうだ、もう一日入っていたいか」
「いやだ」
「さみしければ、またペットでも入れてやろうか」
「いやだ、いやだ!」
「ははは、みなさん。こいつはね、ガタイがいいのに臆病者なんですよ。寂しいと思ってね……箱の中に蛇を入れてやったら……半狂乱になって喚いて仕方なかったんですよ……。仕方ないから出してやりましたけどね……ほら……康介……練習はしたのか。なんの音もしないじゃないか。本当に反省しているのか」
「してます、してます、してます……」
涙声が呟きました。
それから、水音が響きます。ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……ぺちゃぺちゃぺちゃ……それから、ぐすん、ぐすんと泣きながらお父さんは居もしないオヤクメサマに媚びました。
「オヤクメサマ……ちゃんと、します、ちゃんとしてますから……嫌がらないで、ご奉仕しますから……お願いします……ここは、こわい……こわい……真っ暗で……怖い……ちゃんとご奉仕しますから……出して、出してください……」
「本当にちゃんとするんだな?」
「ちゃんとします……」
「じゃあ、箱から出たらきちんとオヤクメサマに股を開いて、「私を使ってください」と媚びるんだぞ」
「はい……はい……。出してくれ……気が狂いそうだ……、ここは、いやだ」
「わかった、わかった」
そう言って村長は村の男の人達に目配せして合図すると、男の人達は頷いて、誰かがバールを何本か持ってきました。
お父さんが入れられた箱は、釘が何本も打ち付けてあって出口もなにもないものでした。おそらく、閉じ込めた時は、暴れるお父さんを無理やり箱の中にいれて、カーン、カーンと釘を打ち込んだでしょう。その音はお父さんにどんなにか、絶望を与えたか解りません。鉄の筒から聞こえてくる男の声は、ずっと震え、弱弱しかった。情けない声でした。
男の人達が箱に近づいて、箱と箱の蓋の隙間にバールを差し込みます。そうして、「よいしょ」の掛け声と共に、めきめきと釘が抜けました。男衆が蓋を取り除くと。
お母さんがはっ、と息を呑むのが私には解りました。
お父さんがいました。
情けない男がいました。
お父さんは、目隠しをつけられ、両手を前で縛られていました。泣いたんでしょう、漏らしたんでしょう。ほのかに尿の匂いがします。頬はまだ乾ききっていない涙で濡れていました。
お父さん。それなのに女の服を身に着けています。その服を私は良く知っていました。白いキャミソールに、黄色いカーディガン。それに白のロングスカート。
お母さんの、洋服でした。
私達は着の身着のままの状態で東京へ行ったので、残った衣装から誰かがお父さんに着せたのでしょう。
お母さんは細身で、お父さんは体格がいいのです。なので、全体的にゆったりとした服をお父さんは身に纏っていましたが、お母さんとサイズが全く違うので、ひどく滑稽でした。そして、手には張り型を持っているのです。これで練習でもしておけと言われたんでしょうか。後生大事に抱えていました。
そして引きずるように、箱の中から出されると布団の上に投げ出されました。
「ああ……」
お父さんが呻きます。やっと外に出れたと思ったんでしょう。
安心した顔が醜かった。
村長が追い打ちをかけるように、ねとりと言いました。
「そら、呆けている暇はないんだぞ。オヤクメサマにちゃあんと、使ってもらえるようにお願いするんだ。そうでなくちゃお前……また、箱の中に入れられちまうんだぞ」
「ああ……します……します……」
そう言ってお父さんはオヤクメサマがいるであろう方向に向きなおりました。
そして、お母さんに向かって話しかけました。
「オヤクメサマ……ごめんなさい……私は愚かな人間です……折角オヤクメサマに選んで頂いたのに自分勝手に逃げてしまいました……もうしません、ちゃんとオヤクメサマに喜んでもらえるように練習します……ほら……見てください……ちゃんと……やりますから……」
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