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陽一君は、大井上家の三人目の子供として生まれました。
肌も、髪も白くて、目だけが赤い。その様子をお父さんは「可愛い白兎みたいだった」と言うのです。陽一君を産んでお母さんはすぐに亡くなってしまい、陽一君のお父さんは八手村のことで忙しく、陽一君の兄弟は、陽一君のことを怖がって近づこうともしませんでした。つまり、陽一君を愛してくれる人は家族には誰もいなかったのです。そこで私のお父さんは乳母役の人を探して働いてほしいと言いましたが、皆、【オヤクメサマ】に怯えて陽一君のことを育てたいとは言いませんでした。
三人目の子供なのに、陽一。
おかしな名前です。でも、それは【オヤクメサマ】の仮の名前としてずっと使われてきた名前の様でした。
お父さんやお母さんはあまり【オヤクメサマ】のことを信じない人たちでした。それなので、お父さんは陽一君を実の子供のように可愛がり、お母さんも、父と一緒に誰も愛してもらえない陽一君の面倒を見たそうです。お父さんもお母さんも。先生が言っていたように、こう思っていました。「陽一君はただのアルビノの子供で、それを昔の伝承を信じる馬鹿な人たちのせいで気味悪がられているだけだ。だから自分達が愛してあげよう」と。
その甲斐あってか、陽一君は大きな病気もしないで、すくすく育ち、五才になりました。
それはそれはとても可愛い子供でした。
ある日、お父さんとお母さんはふと、陽一君の目の前でこんなことを呟きました。
「子供はやっぱりかわいいね。ああ、他人の子でもこんなに可愛いのに、自分たちの子供がいたらどんなにか、可愛いだろう」
「そうね……できるなら……血のつながった子供が欲しいわ……言ってもしかたないことだけど」
お父さんとお母さんは、ふふふ、と笑い合いました。そして、お父さんが悪戯気で、じっ。と自分達を見つめていた陽一君にこう頼みました。
「オヤクメサマ、どうか本当に願いを叶えてくれるなら、子供をください。私達の子供を」
そうすると、陽一君は。
にっこり笑って答えました。
「あげよう」
そうして、なにかを握りしめた手でお母さんのお腹を撫でて、ぱっ、と手を開きました。
なにか。
なにかが入った。
お母さんはそんな風に思ったそうです。
そのひと月後。お母さんはふと体に違和感を覚えました。まさか。そう思って病院へ行くと、なんと赤ちゃんが出来ていたそうです。つまり、私のことですが。
それを聞いたお父さんは喜びました。それから陽一君の所へ行ってお礼を言いました。陽一君はただニコニコしているだけでした。だから、ふと、言いました。
「オヤクメサマ……あなたが本当なら……どうか私に子供の産着をくださいな……」
そう言うと、陽一君はまたにこにこしながら小さな手を握り込み、スッとお父さんに差し出すと。
「あげよう」
と言ってぱっ、と手を開いたのです。
そうすると、赤い、女の子用の可愛い産着がそこにあったそうです。
【オヤクメサマ】は願いを聞いてくれる。というのが言い伝えだったのですが。
「本当は、願ったものをくれる。というのが【オヤクメサマ】の力だったという訳か」
「はい」
ううむ。と言いながら私は腕組みをした。にわかには信じられない話ではある。だが、これが事実だとすればとんでもないことだ。まるで、1990年代にブームを引き起こした奇跡の聖人、サイ・ババのようではないか。しかも、サイ・ババはトリックを考えることのできた大人であるが、五歳の男の子にそれは無理だろう。しかも、まだお腹の中に入っている、男か女か解らない赤ん坊の肌着の色まで当てている。
「なんとも不思議なもんだなあ」
と私が言うと、井上君が「じつは、こんなわらべ歌が伝わっているんです」と言って聴かせてくれた。
ほしいといったらくれるけど
くれろといわれちゃ、やるしかあるめえ
てをむすんでおられりゃあ、もらえるが
てをひらげられたらもらわれる
こわや、こわやのおやくめさまよ
どうか、しずめてくださんせ
あんたのほしいもん、あげる
わたしのほしいもん、くれろ
「え?」
私は思わず口から疑問がついて出た。
「まさか。オヤクメサマの方からも欲しいと言われる時があるのかい?」
井上君が頷く。
「はい、そうなんです」
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