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どーん、どん、どん、どん。
一際大きな太鼓が聞こえ、村の男達がしん、と静かになりました。
それから、小さく、それから徐々に歌い出しました。
ほしいといったらくれるけど
くれろといわれちゃ、やるしかあるめえ
てをむすんでおられりゃあ、もらえるが
てをひらげられたらもらわれる
こわや、こわやのおやくめさまよ
どうか、しずめてくださんせ
あんたのほしいもん、あげる
わたしのほしいもん、くれろ
「オヤクメサマの、おなりじゃ」
村の人が歌いながら、ぱん、ぱん、と手を打ち鳴らします。
するとお父さんにお酒が柄杓で振りかけられます。
お父さんがこれからなにをされるのか、私にはわかりませんでした。
でも、解っていたのは。
陽一君が、来る。
それだけは解っていました。
玄関の方で、「おめでとうございますー」と声が聞こえました。「十八歳、おめでとうございますー」とも言っていました。その声が段々、大きくなっていって。
白い人が現れました。
その人は。
腰まである髪の毛も、着ている着物も、肌も、とても白かった。
陰のある、でも美しい生き物でした。
私のお父さんを欲したのは、私の知っている、無口で優しい笑みを浮かべている陽一君ではありませんでした。
背が高く、男の顔をした、とても整った顔をした美しい生き物でした。
その生き物は私を見もせず、まっすぐにお父さんが乗っているダイニングテーブルに向かいました。ぐちゃ、ぬちゃ、ばりん。汚物と化した夕食の残骸を踏みつぶしながら、お父さんの足元に立ちました。
「康介、私はお前が欲しい」
オヤクメサマがにっこり、笑うのです。
お父さんは「んっ、んっ」と嗚咽を我慢しながら涙を流して首を振りました。
でも、そんな拒絶に意味などありませんでした。
オヤクメサマがすっ、と手を上げると、男達がお父さんの下半身を剥き出しにして、足を大きく広げました。
するとオヤクメサマが自分の指を口に持っていき、舐めます。舐めて、唾液を絡めて。
その指をお父さんの穴に、触れて、入れました。埋めました。
その途端にお父さんが「いやだあ!」と暴れました。
「いやだ、いやだ、頼みます、私が何をしたと言うんですか!頼みます!私は、私は、あなたを本当の息子のように育て、真摯にお仕えしたじゃあ、ありませんか!なにが、不満だったんですか!こんな仕打ち、あんまりだ!」
暴れるお父さんを村の男達がいさめます。
「おいおい、諦めが悪いぞ、康介やい。望まれたのだ、もらわれろ」
「そうだ、そうだ、どうせ、二十歳までだ、可哀そうだと思わないのか?こうやって外を歩けるのも、この方は後二年なんだぞ」
それでもお父さんは首を振っていました。無言で、微笑んで。オヤクメサマはお父さんのお尻の穴に指を入れて、探っていました。お父さんはそれでもあきらめずにうねうねと体をよじらせていましたが。
三本ほど、お父さんの穴に指が入った頃。
突然オヤクメサマが指を抜きました。その途端にお父さんがほっ、としたのが解ります。力が入っていた体が弛緩したから。
でも。
オヤクメサマはそこで終わりにしたわけではありませんでした。
次へ進もうとしていたんです。
着流し、のような着物の。下半身の部分をゆっくりとくつろげて。
オヤクメサマは。
その顔に、体に似合わない大きな男根を握って、こすって。
大きくしながら、お父さんに見せつけました。
その性器は、反り立っていました。お父さんは何も言いませんでした。
ただ、村の男の人達が笑顔になって「おめでとうございます!」と言いました。「おめでとうございます」「おめでとうございます」「めでたやー、めでたやー」そんな声が充満する部屋で、お父さんは犯されました。
今でも、その光景を鮮明に思い出すことが出来ます。
皆が祝福しながら、薄暗い部屋で蝋燭の灯、懐中電灯の明かりがスポットライトのように二人を照らします。私は顔を隣の家のおじさんの両手にはさまれて、目を逸らすこともできません。
ただ、お父さんの、体の中に、男根がずぐずぐと、ゆっくり、でも確かに入っていくのを見ました。お父さんは叫びました。「あああああ」。
痛くて、なんでしょうか。それとも、悲しくて、なんでしょうか。
誰も助けてくれませんでした。みんながにこにこしていました。お父さんの体の中に全部、オヤクメサマの性器が入ってしまうと今度はお父さんが黙ってしまう番でした。何も言わなくなりました。ただ、揺さぶられているだけだったのです。涙を、流して。もう、私の、お母さんの、名前も呼ぶことはありませんでした。
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