1.勇者と異世界、そして労働。

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翌日、ハロークエストと呼ばれる斡旋所で、黒魔は子供のようにはしゃいでいた。 その手に握られているものとは仕事の契約書であり、どうやら良い仕事を見つけたようである。 勇者はその紙を受け取り、内容を読んでまずその報酬金に度肝を抜かされた、歩合制の三文字が霞んでしまうほどに。 今夜はシチューも食べれると踊り狂う勇者と黒魔は、そんな輝かしい未来に向かってまい進するはずだった。 何故そんな仕事が新人の二人に回ってくるのかも考えず、今となっては愚鈍の極みで後悔するばかりである。 「魔物の討伐って…魔物いねーじゃんかァー!」 「ひまー……」 仕事内容とはつまり郊外の警備および魔物討伐で、一体あたり二日分の給料を貰えるというものだった。 当然この平和な世の中で魔物などいるわけもなく、汗だくになりながら支給された剣を素振りしていても、平原で寝そべっていても何にも襲われることはない。 この世界に来たばかりの勇者は知らなくても無理はないが、黒魔は自らの愚かさに絶望するばかりだった。 「魔王…とっくの昔に倒されたんだったー…」 「そうなのかよォー!」 「あたしのシン・カエンなら…あたしのシン・カエンならどんどん燃やして稼げるはずだったのにー…」 「攻撃魔法使えたのかよォー!」 「あ…そういえば攻撃魔法免許持ってないんだったー…」 「免許制なのかよォー!」 「どうして…どうしてあたしはこんなに愚図な生き物なの…」 「元気だせやオラァー!」 黒魔は代々続く魔法使いの家系だけあって、本来ならば才覚溢れた最強の魔法少女だ、ただ生まれる時代を間違えてしまっただけなのだ。 「はあ…はあ…俺を召喚するくらい…凄い魔法使いなんだろ…」 「そのせいで破門されたんだよー…」 「そんなこと…黒魔にしかできないんだろ…めっちゃ凄い天才じゃん…」 「この世界じゃ意味ないんだよー…」 魔物のいない世界に戦いの才に秀でていても、その才を発揮することはないどころか厄介者扱いされてしまう、免許など当然降りることはあり得ない。 「いつかは認められるって…自分を卑下することはないって…」 「今日のごはん無いんだよー…」 「俺なんて…めっちゃ運動しちゃったからな…」 勇者は無駄に消費してしまったカロリーに思いを馳せると、その場に倒れ込んで警備を放棄した、結局その日は魔物どころか、動物すらお目にかかれなかった。
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