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「………」
「………」
夜、勇者と黒魔は焚き火を囲んで暖まっており、その手には半分ずつのパンが握られていて、申し訳なさそうに一口一口を大事に食べていた。
そのパンを恵んでやったのは労働者のリーダー的存在である戦士で、彼は良い仕事にありつけると、余った分をこうやって仲間に恵んでやる聖人だった。
少なくともこの教会が所有する宿泊施設に寝泊まりする人間は皆、必ず一度は彼の優しさに助けられており、特に世間知らずの二人は今まで何度も世話になっていた。
しかしいくら子供とはいえ、いつまでも恵んでもらうのは気が引けるものであり、特に黒魔は育ちの影響から優しさを享受することを怖がっていた。
恐らく勇者なんかより、失敗作としての人生を強いられてきたのだろう、何だかんだ勇者は優しい両親に恵まれて、だからこそ引きこもりにならなかった。
人から愛情を向けられることに慣れている自分が、こういう時こそ勇者にならねばいけないのだろう、彼は思いきってパンを口の中に掻き込んだ。
「なんかパン一個じゃ足りないなー」
「…!!」
「それいらないなら食べちゃうぞー」
「食べるぅ…」
二人のやり取りを眺めていた戦士は軽く鼻で笑うと、手に持っていた安物のイヤリングを見つめて握り締める、その顔はどこか物悲しそうだった。
「戦士さん」
「…司祭様か」
そんな彼に話しかけた、エメラルドのような美しい髪色の女性は司祭の名を引き継いだ者であり、世代を超えてこの教会を運営している人間でもある。
「どうかしましたぁ?悲しそうなお顔をなされて」
「いや…未だしがみついている過去に浸っていただけさ」
「あらそうでしたかぁ、とてもつらいことでしたものね」
戦士とは違って一応は貴族の地位にあり、王宮から莫大な支援を貰っている彼女とは、少し距離を空けた関係でもあった。
「しかしいい加減に乗り越えないとな」
「いっそわたくしのお婿さんになってみますかぁ?」
「そう言ってくれると嬉しいが貴族になってしまうのでな」
初代は司祭と良い関係だったそうだが、今の戦士は貴族に対して確執を抱えている、それにどうしても交われない理由があった。
「うふふ、ところであの件はどうしますの?」
「検討中だ…まだ覚悟ができていない」
「そうですかぁ…うふふ」
彼は彼なりに腹の奥底に隠しているものがある、そのためにはこうして奴隷同然の生活を続ける必要がある、勇者を気にかけているのもそのためなのだから。
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