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試合の準備に移る川畑高校ナイン。
片や、それをただただ見つめるだけの大輝達、仁栄学園ナイン。
そんな中、大輝が心ーに声を掛ける。
「新陽、お前ら……かなり舐められてんぞ」
「分かってる……僕らだけじゃなく、野球そのものを奴は舐めきっている」
「そんな奴に……負けんなよ」
「もちろんさ。君達に勝って王者となった僕達が、あんな奴に負けるなんて……許されないだろ?」
「……ああ」
「こっちの準備は出来た。そっちの準備はどうだ?」マウンドに立った宇宙人が、グルグルと右肩を回しながら問い掛けてくる。
「こちらもオッケーだよ」
心一がそう返答すると、日本一の打線を誇る川畑高校のトップバッターがバッターボックスへと入った。
主審はいない――今グランドに存在しているのは、川畑高校、仁栄学園の選手達と宇宙人のみ。
従って、宇宙人が「プレイボール」と声を放つ。
高校球児VS宇宙人。
異例のルールによる、野球の試合が、今――始まった。
そして――
あっという間に、川畑高校の攻撃は終わった。
マウンドに立つ宇宙人の球に、一球もかする事が出来ず、二十七アウト全てを三振に取られてしまったのだ。
現高校野球最強の打線を誇る川畑高校が、為す術なく沈黙したのだった。
その光景を、仁栄学園ナインが唖然と見ていた。
大輝は愕然としている。
川畑打線の凄まじさを身に染みてしっている大輝が、この光景の異常さを、この場にいる誰よりも理解出来ていたのだ。
マウンドに立っていた宇宙人は――紛れもない化け物だった。
「お、おい……新陽……」
「……分かってる……大丈夫だ……僕が一点も取られたりさえしなければ……」
相当動揺している様子の心一。
彼もまた、川畑打線の強さと頼もしさを身に染みて知っている人物の一人だ。動揺するのも当然だ。
そんな荒れたメンタルのまま、心一がマウンドに立つ。
現高校野球、最強のピッチャー【風神】新陽心一が。
そして打席に立つのは宇宙人。
「ふむ……こうなってしまったら、僕の打席は三打席だけで良い」
「え?」
「聞こえなかったのかな? 僕が三打席で、一点も君から点を取れなければ、僕の負けで良い――そう言ったんだよ」
「――――っ!!」
流石の心一も、この言葉には耐える事が出来なかった。
「ぬかせ!! 舐めるのも大概にしろ!!」
激怒である。
大きく振りかぶりながら、心一は叫ぶ。
「全打席三振に取ってやるよ!!」
そして、代名詞となったトルネード投法から、心一は一投を投じた。
全国制覇を勝ち取った唸る豪速球が、右バッターボックスで待ち構える宇宙人へと放たれる。
「……良い球だ。だが所詮――アイツら以下」
宇宙人がバットを出す。
「僕に挑むには――百年早い」
カキィィィイイン!! 甲高い金属音と共に、白球が高く舞い上がる。
そのまま、バックスクリーンを越え、白球は甲子園への場外へと消えて行った。
特大、場外ホームラン。
「……そ、そん……な……」
心一は、たったの一球で全てを打ち砕かれ、マウンドに崩れ落ちた。
宇宙人は、そんな心一の姿を見て、呆れ果てるかのようにため息を吐く。
「勝負あり。良いもの持っているとは思うけれど……到底、彼らには及ばない……期待外れだ」
宇宙人がそう吐き捨てた瞬間、再び、最初に現れた宇宙人が瞬間移動の如く姿を現した。
『やはり……ダメだったか』
最初の宇宙人は続ける。
『仕方がない……もうこの星は用済みだ。今すぐ、滅ぼしてしまう事にしよう』
「は!?」
顔を真っ青にして顔を起こす心一。
「滅ぼすって……どういう……」
『そのままの意味だ。彼に敗北してしまった君達は、私の期待外れだった――という事だ。従って、この星は用済み――我が星の誇る兵器によって粉々にして、太陽に掻き集めた藻屑を焼いてもらう事にする、という事だ』
「そ……そんな……」
ワナワナと震える心一。そして川畑高校ナイン。
地球が滅びる――その突きつけられた現実の前に、必然的に恐怖を覚えてしまう人類。
これは当然の反応である。
しかし――そんな中で、この状況に対して全く動じていない人物が一人存在していた。
自分に勝ち続けていた最高の好敵手である心一が、無様にも敗北する姿を見て、何とも言えない感情に支配されている男――星野大輝だった。
現高校野球ナンバーツーの男――星野大輝だった。
「な……に、やってんだよ……新陽……お前、強かった筈、だろう……何で負けてんだよ……オレは……オレ達は……お前に、負けたんだぞ……? そんなお前が……何で……アイツは……月乃は……そんなお前を……――」
大輝は走り出した。
『間もなく、宇宙船からの砲撃が始まるようだ。撤退を』
「りょーかい……まったく……長旅した甲斐がない。無駄足にも程があったよ……がっかりだ。次は、もっとマシな相手見付けてくれよ。艦長」
『……うむ……尽力しよう』
そんな大輝に目もくれず、宇宙人二体は、間もなく滅びる地球から撤退しようとしていた。
その直前、声が掛けられる。
「待て宇宙人共!!」
「?」『?』
「何逃げ帰ろうとしてんだ!? オレ達は……オレ達はまだ! 負けてねぇぞ!!」
眉を寄せる宇宙人。
「何を言っている? 決着はついたぞ。為す術なく、この星の世代ナンバーワンは僕の前に跪いた。これが僕達の勝利でなく、何と言うんだ?」
「まだなんだよ……」
「?」
大輝は言う――叫ぶように、言う。
「まだ――――オレがいる!! オレが残ってる!! お前はまだ、オレを倒してねぇ!! 即ち――――この星の高校球児はまだ、負けてねぇ!! オレの心が跳ねてんだ! お前の球をオレなら打てるって…………。
心がビシバシ跳ねてんだよ!!」
『…………』
呆れた表情のまま、クウゴが吐き捨てる。
「新陽心一にすら勝てなかった負け犬が何を……」
『クウゴよ……戦ってやれ』
「は? 艦長、何を……」
『その代わり……一打席だけだ。本来ならば、資格のない貴様にチャンスをやろうと言うのだ……それで構わぬな?』
大輝は頷いた。
「ああ! それで構わない!」
力強く、頷いた。
『さて、どちらがご所望かな。攻撃か守備か……好きな方を選ぶが良い』
「……攻撃だ」
大輝は即答で、そちらを選んだ。
『……よかろう。では、クウゴよ。マウンドへ上がれ』
「…………はいはい、投げれば良いんでしょ。投げれば」
少し不機嫌な様子で、クウゴと呼ばれる宇宙人が再びマウンドに向かって行く。
その間に、心一が大輝に声を掛けた。
「星野くん……すまない……」
「謝るんじゃねぇよ新陽……お前は本当に凄い奴なんだよ……お前に負けたオレがそれを証明してやるから……見ててくれ」
「……星野くん……」
「でないと……月乃が浮かばれねぇ……」
「え……?」
大輝が左バッターボックスに入り、クウゴがマウンドに立つ。
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