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「一打席勝負で、打球判定はさっきも同じで良いよな?」
「……ああ……構わない」
頷く大輝。
即ち、フェアゾーンに転がしさえすれば人類の勝ち。
クウゴはセットポジションから、素早く一投を放つ。
まるで光のような豪速球を前に、大輝が振ったバットが空を切る。
1ストライク。
(くそっ! 新陽とは違う球質の豪速球……。やっぱ、横から見てるのと、バッターボックスから見てるのじゃ全然違う! めちゃくちゃ速い! ひょっとしたら、新陽のより速いんじゃ……)
二球目――
クウゴが全く同じフォームで投じる。
「っな!?」
先程の、光のようなストレートとほぼ同様のスピードで、左バッターボックスに立つ大輝側へ食い込むように曲がる、超高速スライダー。
これもまた、大輝は空振る。
2ストライク。
(あのスピードで曲がんのかよ!? 何だコレ? こんなの反則だろ! こんなの打てる訳……――)
「さぁ……追い込んだ。あと一球……」
セットポジションを取り、呆れるように溜め息をつきながら、クウゴは投球モーションに入る。
「全く……つまらない。この星のナンバーワンとナンバーツーも……所詮この程度……。まったくもって――野球とは、つまらない」
「っ!?」
そのクウゴの言葉を聞き、星野の脳裏にとある人物とかつて交わした会話が浮かび上がって来た。
『ふざけんな! 最高の好敵手だと!? オレがアイツのライバルな訳ねぇだろうが!!』
『え? ちょ、ちょっと待って大輝くん。落ち着いて!』
『落ち着くも糞もねぇんだよ!! オレは今まで一度もアイツに勝てた事ねぇんだぞ!? 才能から何から、全然違うんだよ!! アイツとの差は――一番オレが分かってんだよ!! 気安くライバルとか言うんじゃねぇよ!! 野球なんざ――辛いだけだ!! つまんねぇよ!!』
『大輝くんっ!!』
(そうだ……オレも昔……そう思っていたし、今もそう思ってる――野球なんざつまらねぇ……ただ、アイツ――新陽以外の奴らよりかは出来るから続けてるだけだ……あー……違うな。それも違う……オレが野球を続けている理由……それは――
彼女との、約束を果たす為だ……月乃との……約束を……)
約束……それは――
『……野球を……つまらない、なんて……言わ、ないで……? 大輝くん、なら、きっと……日本一の、選手に、なれ……る、から……ね?』
『…………ああ……』
日本一の――野球選手になる事。
なれるという事を証明する事。
「う……おぉぉおおぉおおおっ!!」
大輝がバットを出す。
クウゴが今回投じた球は、光のようなスピードで曲がる超高速シュートだった。
「これでおしまい……さよなら」
クウゴは確信していた。コレで三振だと。
川畑高校ナインの時と同じく――バットに当てる事すら出来ないのだと……確信していた。
しかし――
「終わって……たまるかぁぁああっ!!」
「っ!!」
ギィィンっと、鈍い金属音が鳴り響く。
打球がボテボテと、ファールゾーンへ力無く転がっていく。
大輝のバットが、始めて、クウゴのボールに当たったのだ。
意地の食らいつき。
三振だと決め込んでいたクウゴは当然驚く。
他の選手達も……そして、最初に現れた宇宙人も……驚きを隠せない。
(クウゴのスライダーを、初見で当てただと? 読んでいたのか? いや、そうじゃない――あのフォームでそれは有り得ない――あれは意地だ。三振してたまるかという意地で、粘り強く、食らいついたのだ……星野大輝……!!)
大輝は睨み付ける。マウンドに立つ宇宙人――クウゴを。
「…………」
クウゴは何も言わず、初の四球目を投じる為の投球モーションに入る。
一投を投じた。
大輝がそれに立ち向かう。
(この程度……だと? オレを――川畑高校を――そして新陽をバカにするんじゃねぇよ!! 皆スゲェんだよ!! すげえ奴らなんだよ!! テメェが何者なのか、何を背負っているのかは知らねぇけどよぉ!! オレ達を――野球を――舐めるんじゃねぇよ!!)
球種は、光るスピードで激しく落ちる――超高速フォークだった。
「うぉぉおおおぉおおっ!!」
ギィィンっという金属音と共に、白球が舞い上がる。
白球はそのまま、フラフラとクウゴのグラブの中へと収まった。
結果――ピッチャーフライ。
「くそっ……くっそぉぉおおおっ!!」
その結果に悔しがる大輝。
対して、マウンド上のクウゴは――
「……見事だ」
そう言って、笑った。
「艦長……」
『…………ああ、分かっている』
艦長と呼ばれる、最初の宇宙人が話し始めた。
『今の星野大輝の粘り強さに免じて、今すぐの地球への砲撃は取り止める事にする』
「は!?」
『私は……そしてクウゴは――お前達に可能性を見た』
「……可能……性……?」
『かと言って、今のままでは実力不足は否めない。そこで、お前達に猶予をやろう』
「猶予……?」
『一年……この星の時を巻き戻す。来年のこの日までに――一度でも、日本一の座に、お前達地球人がつけたら、地球人の勝ち、出来なければ――地球を砲撃する』
「時を……巻き戻す……? 何だそりゃ……」
『では、一年後……お前達が力をつけて、この場所に立っている事に期待しよう』
「お、おいっ! 勝手に話を進めんな! オレはまだ――」
「星野大輝」
「っ!?」
「そして、新陽心一」
「っ!!」
甲子園のマウンドに立っているクウゴが、二人の名前を呼ぶ。そして続けた。
「僕と……五人の神童は……そう簡単には倒せない。精々一年間――鍛錬する事だ」
星野は手を伸ばす。
「待て! 逃げんな!!」
次の瞬間――大輝と心一、その他両校ナインの面々の視界が暗転した。
「クウゴ!!」
「へ?」
「え……?」
大輝の視界が光を見た、その瞬間。
視界に映ったのは、昨年引退した筈の先輩の姿だった。
その先輩は、泥だらけのユニフォームを着ている。
「……どうしたんだ? クウゴ? 誰だそれは……オレは今から、お前に新キャプテンを命じようとしていただけなんだが?」
「え?」
「え?」
「…………は?」
こうして、タイムスリップが行われた。
時は一年前――新チームとして始動し始めた直後だった。
ここから始まる。
地球人代表と六人の神童との激闘が……。
そして――
星野大輝の、日本一への再挑戦が――始まったのだった。
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