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グラティアは、箱馬車のなかの辺境伯に頭を下げた。
「クラーラは真面目で優しい子です。深く傷ついた妹のことを助けてくださっただけではなく、婚約を申し入れてくださるなんて……。きっと、両親も喜ぶでしょう」
「ありがとう。では、行ってくる」
「お気をつけて……」
グラティアの隣に立つクラーラは不安げな表情を隠せない。
辺境伯はふっと表情を和らげて、箱馬車から身を乗り出した。
それから、クラーラの頬に手を当てる。
「心配は要らない。もし私が弱かったら、今日までこの地位に留まることはできなかっただろうから」
「……はい」
辺境伯はこれから王都へ向かうのだ。
クラーラ、つまり伯爵家に対して正式に婚約を申し入れるため。
そこから協力者たちと共に、公爵家の力を削ぎ落す行動に移していくのだという。
王都の勢力図もどんどん変化するのだろう。
(もう、王都へ戻りたいとは思わないけれど)
箱馬車が走り出す。
クラーラはまだ不安そうに手を握りしめていた。
グラティアは、クラーラの肩を抱き寄せる。
この結婚は政治のためだよ、とウィルバーははぐらかしていた。
しかし、グラティアは決してそれだけではないと感じている。
ウィルバーの気持ちは、きちんとクラーラへ向いている。
「公爵家と対等に渡り合えるのは辺境伯くらいだという話だから、大丈夫よ。さぁ、わたしたちはやるべきことをやりましょう」
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