わたしたちが追放された理由

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 クラーラはクラーラで、時間を見つけては書庫で歴史や経済を勉強している。  根詰めすぎて倒れたのかもしれない、と音のした方向へグラティアは向かった。  グラティアの予想通り、クラーラは床に座り込んでいた。  その手元には分厚い本が開かれている。音はこの本が落ちたときのもののようだった。 「大丈夫? 立ち上がれる?」 「……お姉さま……」  クラーラの顔は青ざめていた。  差し伸べられた手を取り、よろよろと立ち上がる。  クラーラを座らせた後、グラティアは開かれた本を拾い上げた。  表紙の文字を指でなぞる。 「神学書なんて、珍しいものを読んでいるのね」 「違うんです」  クラーラの鼻の頭が赤くなっている。 「調べたんです。天界から追放された神さまのことを。神さまは、罪を犯して追放されたのではありません……!」  青い髪の神さまの、長い長い物語。  グラティアは手にしている本をぱらぱらとめくる。  古代文字で書かれていることだけは分かった。  勉強の苦手なクラーラが、密かに翻訳作業をしてきたということもまた、理解する。  グラティアは本をクラーラに差し出した。 「教えてちょうだい、クラーラ。この本には何が書かれているの?」  静かにクラーラは頷いて、語りはじめた。  ――かつて、天界には。  困っている人間を見ると、手を差し伸べずにはいられない神さまがいた。
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