わたしたちが追放された理由

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 やがて人間たちはその神さまにばかり祈るようになった。  神さまに祈るだけで何もしない人間が増えた。分不相応な望みを持ち、叶わなければ、手のひらを返したように神さまのことを罵る者も現れた。  すると他の神々は、口々にこう言った。 『人間に対して情けをかけすぎる。お前は、神失格だ』 『そんなに人間が好きなら人間界へ行けばいいのだ』  そして反論の機会を与えられることなく、その神さまは地上に堕とされた。  そんな目に遭っても、なお。  人間を好きな神さまは、自分の欠片を人間に分け与え続けている。  いつか天界に戻れる、なんてことはありえない。  欠片を与え続けたら神といえど、消えてしまうだけなのだ。 「そんな……」  グラティアは床に座り込んだ。  書庫の床は硬く冷たく、グラティアの体温を容赦なく奪っていく。 「だから、見た目が若返っているというの……?」  懐から欠片を取り出す。  淡く輪郭の光る欠片。  文字通り、神の一部だったのだ。  グラティアは両手で欠片を握りしめ、瞳を閉じ、両手を額に当てた。 (己の存在を削ってまで、人間の願いを叶え続けているなんて)  人間の想いは尊いと、神は言った。  しかし神の想いもまた、尊いものなのだ。  ぶっきらぼうに見えて、人間を想い続けている神。  グラティアの胸の奥に、想いが泉のように湧きあがる。 (今。すごく、ルークさまに……会いたい) * *  青空市で、いつものようにルークは布の上に座っていた。
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