わたしたちが追放された理由

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 ルークは手のひらを握ったり、開いたりを繰り返した。   骨ばった、大きな手。  黙ったままのふたりの間を、風が吹き抜けていった。  やがて。  ぼそり、とルークが呟いた。 「この地に起きることで、俺の知らないことはひとつもない。人間は決して善良な生き物ではない。それでも俺は人間が好きなんだ。想うあまりに元の場所にいられなくなった。だというのに、想うことをやめられずにいる」 「それならば、わたしがあなたのことを想います。あなたの幸福を、穏やかな日々を……!」  グラティアが声を張り上げる。  そして、変化が起きたのは――ルークではなく、欠片の方だった。  ぱりんっ! 「!」  きらきら……。  欠片は割れて飛び散り、光となって消えた。  しかし。  何も残らず、何も変わらない。 「神を人間にするには、俺の力が足りないようだな」  自嘲気味にルークが笑った。 「そんな」  グラティアの頬が紅く染まる。 (わたしは……なんて傲慢なんだろう。どうしようもく、恥ずかしい……)  グラティアは踵を返した。  いたたまれなかった。  これでまたルークの力が消えてしまったというなら、選択は失敗だったのだ。 「グラティア!」  ルークの声を振り切って、グラティアは青空市から走り去った――。 * *  珍しく雲が少なく空の色が青い、ある日の朝。 「任せたぞ、グラティア嬢」 「こちらこそよろしくお願いします」
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