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「そうですね」
クラーラが柔らかく微笑んだ。
瞳はきらきらと煌めいている。
「ウィルバーさまが戻ってくる前に、料理の腕を上げないといけません」
「えぇ、そうね」
確かな足取りで先に館へ戻るクラーラを見届け、グラティアは空を見上げた。
(まるで、ルークさまの髪色みたい)
逃げてしまって以来、青空市へは行っていなかった。
このまま会うことはないかもしれない。
人間の浅はかさを見せつけてしまったという、不安でいっぱいだった。
(嫌われて、しまっただろうか)
会いたくない訳ではない。しかし、その資格はないと強く感じている。
そのときだった。
「ようやく外に出てきたな」
この場にいない筈の声が聞こえて、グラティアは立ち止まる。
「ル、ルークさま」
辺境伯家の門前にルークが両腕を組んで立っていた。
心なしか怒っているように見えて、じり、とグラティアは後ずさる。
そのまま、ルークに背を向けた。
「待てっ」
ルークが地面を蹴る。
そのまま、背中からグラティアのことを抱きしめて捕まえてきた。
力強さはあっても、温もりはない。
ルークは神であり、人ならざる存在だから。
「……グラティア」
ルークの掠れた声がグラティアの耳朶を打つ。
グラティアは、ぎゅっと目を瞑った。
「どうして青空市へ来ない」
「あ、合わせる顔がないからです」
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