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最悪の状況に置かれた自分たちを助けてくれるとは、よほどの人物だろう。
「辺境伯領、ですか」
「幸いなことに、公爵家の唯一手出しできない相手が彼なのだ。それに、王都からも離れている。これが最善の選択だった。本当に、すまない。これも家のためなのだ」
グラティアは、何も言うことができなかった。
*
*
姉妹が辺境伯領へ出発する日の早朝。
誰も見送りには現れなかった。
友人も、紙の上だけではあったものの――婚約者も。
付け加えるならば、元婚約者からの最後の手紙には、こうしたためられていた。
『君のような才女に、私は釣り合わない。遠く離れた地での幸運を願う』
(上手いことを書いたつもりかもしれないけれど、自分は無関係だというアピールにしか見えないわ)
公爵家の怒りを買った顛末がこれだ。貴族ならば、誰もが関わりたくないのだろう。
涙どころか、溜め息すら出てこない。
グラティアは長かった髪を肩上でばっさりと切った。それでようやく、王都への未練を断ち切れたような想いでいる。
箱馬車の中で、クラーラはずっとうずくまって泣いていた。
もしかしたら、妹が自分の分まで泣いているのかと思えるくらいに。
そっと、グラティアはクラーラの背中を撫でる。
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