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(悪いのは公爵家だというのに、皆、恐れて何もできない。そんな貴族社会から離れられて、かえってよかったのかもしれない……)
王都から辺境領へ向かう道は、ひどい悪路なのだろう。
揺れ続ける車内。グラティアはそっと壁にもたれかかり、瞳を閉じる。
(わたしの運命は、わたしのものではない……)
――そしてグラティアは、クラーラと共に王都から追放されたのだった。
*
*
どれだけの時間が経っただろうか。
馬車がつんのめるように大きく揺れ、止まった。
(着いたのかしら……?)
グラティアの予想は当たっていた。
丁寧なノックの後、箱馬車の扉が開く。
冷たく乾いた空気が車内に流れ込んできて、グラティアは少しだけ震えた。
外には黒いベスト、白いシャツ、黒いズボンの中年男性が立っていた。
落ち着いた雰囲気の持ち主だ。辺境伯家の使用人だろうか。
「お待ちしておりました。グラティアさま。クラーラさま。旦那様がお待ちでございます。足元に気をつけてお降りくださいませ」
「ありがとうございます」
グラティアがクラーラの背中を撫でると、なんとかクラーラもゆっくりと起き上がった。
姉妹は馬車から降りた。
使用人がそれぞれの鞄を預かってくれる。
(空気のにおいが、王都と違う。乾燥しているというか、土のにおいが混じっているというか)
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