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第64話(最終話) 線香花火
暗闇の中で小さな火の玉がジジジジと音を立てて震えていた。そこからパチパチと無数の火花が飛び散り、やがてポトリと落ちる。静寂。それをすぐに打ち消すようにして遠くから波の音が打ち寄せる。夜空に浮かぶ半月はその光をほんの数滴だけ真下でさざなみを立てる海面に落としていた。
——これでよかったのかな……。
メイは火の消えた線香花火を空き缶に入れ、立てた両膝の間に顔をうずめてため息をついた。
亮の頼みというから、ククリットに連絡を取って彼らをサムイ島に向かわせた。が、本当に亮からの頼みだったのか。チャニの嘘ではなかったのか。確かめる術なんてなかった。そして亮が今どこでなにしているのかも……。
目を閉じて胸元のネックレスに手を触れた。亮からもらった白蝶貝のネックレスである。たしかなものなどなにもこの世界でその感触だけは唯一たしかなような気がして、彼女はそれにすがるようにしてぎゅッと握りしめた。
(あとがき)
修羅ノ章(山田長政が主人公のアユタヤ王朝編)に続きます。というか、修羅ノ章を書き終えたら二つの章をひとつに統合し、時間軸を現代とアユタヤ王朝時代で行ったり来たりしながら進めていく形にします。それによって消化不良だったすべての謎が明らかになり、ひとつのテーマが浮き彫りになります。
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