Strawberry Drops

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「小林くん」 「ん?」 「飴食べる?」  イチゴのイラストが描かれた紙に包まれた飴。摘んでみせると息がおちついた小林くんがにっと笑った。 「ありがとう。貰う」  彼はすぐに袋をあけて飴を口のなかにいれると微笑んだ。 「うん。甘くて優しい味」  シュウさんもそう言っていた。息がとまりそうになる。一人で勝手にドキドキして、それを誤魔化すように私も、口の中にぽんと桃色のドロップを落とした。やっぱり甘くて優しい味が舌の上で溶けて身体に沁みこんでいく。 「倉田、やばい! 今日小テストだから少し早く来いって先生いってなかったっけ? 時間ギリギリかも」  小林くんが腕時計をみて呻くように叫んだから、私もスマホ画面に表示されている時間に視線を落とす。 「忘れてた。……走るしかないね」 「また走るのか。きつっ」  小林くんはそう言って男の子にしては形のいい眉をへの字にした。普段はクールにみえる大男のくせに、子供みたいに可愛くみえたから微笑んでしまう。 「とにかく、行こ!」  唇に笑みをのせたまま走り出す。足元にいた鳩が驚いたようにぱぁっと羽を広げて、何羽も空に舞い上がった。ちょっと待てよー、という小林くんの苦笑まじりの声が背中を追いかけてくる。  朝の爽やかな風が頬をすべり後ろに流れていく。舌に沁みてくる甘く優しい味に目を細めて青い空を仰ぐ。私は大きく息を吸い込んだ。 おわり
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