Strawberry Drops

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☆  いけぶくろーいけぶくろー  駅のアナウンスが物思いを破った。慌てて電車から降りる。もう少しで乗り過ごしてしまうところだったと、一人照れ笑いを浮かべる。  シュウさんが原宿のお店をやめて半年。あれ以来彼のSNSをチェックすることはやめた。もう会えないのに彼の存在を確認してしまうとまた、あの唇を思い出して切なくなってしまうから。  最後に会ったあの時のことをそっとココロに秘めておくだけでいい。それでもまだ胸が疼く。シュウさんは心のなかに2年もいたのだからそう簡単に消えない。  改札をでて駅構内から外に出た直後だった。トントンといきなり肩を叩かれて、びっくりして振り向く。背の高いひとが、はあはあいいながら私を見ていた。 「どうしたの。そんな息を切らして」  大学で同じクラスの小林くんだった。学籍番号が近いせいもあって、1年生の頃からよく話をする男の子。彼の息遣いがあまりに荒いのでつい笑ってしまう。 「……倉田が歩いているのが見えたから……全力ダッシュした」  ゼイゼイしながら囁くようにいう小林くんは、それなりの距離を全力で走ったのだろう。肩で大きく息をしていた。 「そんなに急がなくていいのに」  笑いながらそう声をかけると小林くんはゆっくりと顔をあげ、すっと目を細めた。ほんの少しだけ。その表情がシュウさんのものに重なってドキリとした。顔立ちや背格好はまるで似ていないのに。 「……倉田の姿が見えたら、どんだけ遠くからでもダッシュして追いつく」  真っ直ぐな、それでいて少し照れたように細められた眼差し。軽い口調のくせに声の響きがどこか甘い。それが霧雨のように私の内側に滲んで溶けた。誰のどんな言葉にも反応しなかった心が、ほんのすこしだけ震えた。口元がほころぶ。
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