Strawberry Drops

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 原宿駅を降りて横断歩道を渡り表参道をしばらく歩いてから、脇道にはいって坂を登ったところ。そこにシュウさんが働いている美容院があった。古い一軒家をアレンジしたお洒落なお店で、芸能人も通ってくるみたいだった。  シュウさんに髪を切ってもらうようになったのは大学入学したての頃。原宿を歩いていたらカットモデルにスカウトされたのがキッカケだった。最初は不審者かと思って無視したのに、背中を向けた私に彼が言ったひと言で足が止まった。 「君、俺が切ったらもっと可愛くなるんだけどなあ」  振り向いてじっとシュウさんを見つめたら、邪気のない笑顔が目に入った。 「俺、ホントに怪しくないよ。大丈夫だから」  怪しくない大丈夫、は怪しいひとが言う常套句。それなのにシュウさんについてお店まで行ったのは、声の響きが穏やかで角がまるでなかったこと。そしてなによりその笑顔を見て、絶対に悪人じゃないって確信してしまったから。10コも年上なのにフニャって目を細めて笑う笑顔が可愛くて目が離せなかった。  彼が創るヘアスタイルにも一目惚れした。ロングからあまりした事がなかったミディアムヘアへ。繊細なのに少しだけ大胆。女子高生の空気をまだ纏っていた私に、ほんの少し色気がブレンドされてオトナになったような気がして。一気にテンションがあがったあの感じは今でも忘れられない。以来カットモデルじゃなくても、バイトしてお金が貯まったらシュウさんのお店に通うようになっていた。  あの日は最初からいつもと違っていた。朝一番でカットモデルに呼ばれたのは初めてだった。普段とは違うお店の静けさに気後れしながらそっとドアを開けたら、振り返ったシュウさんの顔が見えた。フニャリと溶けた綿あめみたいな甘い笑顔。それは暗い山道で見つけた一軒家の灯りみたいに私を安心させた。 「いらっしゃい。朝早く悪かったね」
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