40人が本棚に入れています
本棚に追加
細く骨ばった指が肩先より伸びた私のボブヘアを梳く。少し堅い印象になるのはわかっているけれど、オトナっぽく見える気がしてしばらくボブにしてもらっていた。
「伸びたなあ」
シュウさんが髪に触れるといつも、電気みたいに微かな痛みが背中を走った。苦しいのに甘い。もしかしたら。あの痛みを感じたくてシュウさんのカットモデルをしていたのかもしれない。そう思うくらい甘美な痛みだった。
シュウさんの全神経、視線が私の髪に向けられている。彼の指先が触れている。そう思っただけで、甘い痛みは私のなかで溶けて柔らかな膜をつくる。そのなかで猫のように瞳を細めて、緩んだ顔をしている私が鏡に映っているから。慌てて口元を引き締めた。
「あのさ。思い切ってスタイルを変えてもいい?」
それまではカットモデルであっても必ず私のリクエストを聞いて、彼の作りたい髪型との接点をみつけてくれていた。何か思うところがあるのかもしれない。それにシュウさんが創るスタイルならどんなに奇抜でも、好きになれる自信があった。
「うん、いいよ。でも似合わなかったら責任取ってもらうから」
自分でも可愛くないと思いながらそんな言い方しかできない。いつもなら怖いなあ、なんていいながら笑うのにこの時のシュウさんは違った。すうっと息を吐いて真面目な顔で頷いた。
「了解。全力でやります」
神妙な顔をしているシュウさんを見てつい笑ってしまうと、彼も少しだけ口元を緩めた。
「いやホントに。今日はめちゃくちゃ気合いをいれてやる。うん」
私の髪を触りながら、頭のなかでイメージをしているスタイルに焦点を合わせるようにシュウさんは少し遠い目になった。
最初のコメントを投稿しよう!