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1.初恋
ぬれた手に息をふきかけて顔を上げる。
空にはぽつんと星が光っていた。
他に星はなく、たった一つだけで……
(なんだか、今のわたしみたいだわ)
帝都には、家族も友だちも、誰もいない。
わたしはここで、ひとりぼっち……
「明けの明星っていうんだ。明るくて、きれいな星だろう?」
びっくりして舞衣は後ろを振り返った。
誰かが立っている。
あれは……
「せ……泉里さま!?」
明け方の薄暗い中でも、はっきりその人だとわかった。
すらっと高い立ち姿。
精悍な顔立ちに、月夜の闇をとかしたみたいにきれいな黒髪。
初めて泉里を目にした時は、この人は本当に同じ人間なのかとすら思ったものだ。
こんなにきれいな人、故郷でも、帝都に出てきてからも、見たことがない。
あまりに美しすぎて、神さまか何かなんじゃないかと思った……。
相良泉里は、舞衣が奉公するこの邸の令息だった。
舞衣がこの大きな邸宅で女中として働くようになってから、もう半年。
その間、遠巻きに見るだけで、目が合ったことも話したこともない人が、今、舞衣に話しかけている……
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