6.縁談

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 互いの吐息がかかるくらいに近い距離で、視線が重なり合う。  泉里は少しだけすまなそうに目を細めたけれど、まっすぐに舞衣を見つめ、真剣な声音で告げてくる。 「急にしてしまって……悪かった。だが、こうでもしなければ、お前を納得させることはできないと思った……」 「え……?」 「勘違いじゃない。俺がお前に優しくありたいと思うのも、お前のことになると、他の何もかもを忘れて必死になってしまうのも。すべては、舞衣――お前が大切だからだ。お前を、他の誰よりも……愛しているからだ」 「―――……!」  時が止まってしまったような心地がした。  長い、長い夜が明ける。  窓の外では、ゆっくりと日が昇りつつあった。  明るく柔らかな白い陽差しがあたりを包む。  ステンドグラスを透かして光が注ぎ、早朝の澄んだ空気が美しい虹色に彩られる。  ……本当は、まだ舞衣は眠っていて、夢を見ているんじゃないかと思った。  だって、こんなことは到底信じられない。  泉里は今、他でもない、舞衣に…… 「舞衣」  呆然として言葉を発することもできずにいると、再び唇が(ふさ)がれる。  温かくて、優しくて――幸せで。  いつまでもこうして触れ合っていたいと心から思う、そんな口づけだった。 「これから先、俺はずっと、お前にそばにいてほしいと願っている。妻として、ずっとそばにいてほしいと」 「……でも、泉里さまは……灘乃千沙さまと……」  今、わたしは――ずっと好きだった人に、求婚されたんだ、と。  その事実がどうしても信じられなくて、つい疑うようなことを尋ねてしまう。  泉里は首を横に振り、少し苦笑して答えた。 「灘乃千沙との縁談が罠であることは、はじめから知っていた。そうと知った上で、相手の悪事を確実に明るみに出すために、あえて縁談を受けたんだ。だが、こんなことになるのなら、もっと早くお前に想いを告げるべきだったな。……ふがいなくて、すまない」 「……! いいえ、そんなことは……!」 「――舞衣」  泉里の表情が、再び真剣さを強める。 「俺がともにいてほしいと望むのは、お前だけだ。お前以外には考えられない。だが、俺はこれまでに何度もお前を困らせて、泣かせてきた。お前には泣いてほしくない、笑っていてほしいとずっと望んでいたにもかかわらず、何度も……。けれどこれから先は、必ずお前を幸せにすると誓う。もうお前を泣かせるようなことはしないと。――だから、どうか、お前の答えを聞かせてくれないか」  聞いているそばから、透き通った雫が頬を伝い落ちていく。  答えなんて、はじめから決まっていた。  けれど涙が止まらなくて、なかなか言葉にすることができない。
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