6.縁談

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「無理、です」 「……え」  愕然(がくぜん)とする泉里の表情がおかしくて、泣き笑いになってしまう。 「泣かせないように、なんて……無理です。だって、これから先……きっとわたしは、嬉しくて何度も泣いてしまう。今だって……泉里さまがわたしを想っていてくださったことが……こんなにも嬉しい」 「舞衣。それは――」  両手を伸ばし、泉里の頬に指先を添える。  目を閉じ、精一杯に背伸びをして、口づけで答えを返す。 「――愛しています。わたしも、泉里さま……あなたのことを、誰よりも」  一語一語に想いを込めて告げれば、泉里はゆっくりと目を(みは)り、それからくしゃりと嬉しそうに破顔した。  どちらからともなく唇を重ねる。  口づけは瞬く間に深くなって、思考はすっかり溶かされて、何も考えられなくなっていく。  愛おしくて、たまらない。  全身を甘くて幸せな感情に満たされていきながら、舞衣は心の底から思った。 (わたしは……今、きっと世界で一番、幸せ者だわ)         *  帝都外れの廃教会。  打ち捨てられてまもないのか、天井や床は朽ちた部分が目立つとはいえ、あざやかなステンドグラスが美しい建物の内部を垣間見(かいまみ)て、浄祓(じょうばつ)部隊の面々は一様に狼狽(うろた)えていた。その中には、(がら)にもなく顔を赤くしている者までいる。 「なあ、俺たち、今入っていっていいのか……?」 「……どうしますか、副隊長」  指示を(あお)がれた柊哉(しゅうや)は肩をすくめる。 「そんなに後で隊長殿に(うら)まれたいなら、今すぐ突入してみればいいんじゃないですか? やれやれ、本当は泉里が灘乃千沙を牽制(けんせい)して時間を稼いでいる間に、我々が結界を突破してあの子を救出する手筈(てはず)だったのですけど……もう僕たちの出番はないどころか、お邪魔にしかならないみたいですね。……まあ、でも」  帝都よりはるか高く。  青く澄み渡る空を見上げながら。  柊哉はひそかに、つぶやいた。 「――我が友人達の門出に、心からの祝福を」 「え? 副隊長、何か言いました?」 「何も言ってませんよ。さて、我々は離れたところで、もう少し待ってあげるとしましょうか」  後で泉里と顔を合わせたら、いったいどんなふうにからかってやろうか。  そんなことを考えながら、柊哉は部下を引き連れてその場を離れたのだった。
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