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「無理、です」
「……え」
愕然とする泉里の表情がおかしくて、泣き笑いになってしまう。
「泣かせないように、なんて……無理です。だって、これから先……きっとわたしは、嬉しくて何度も泣いてしまう。今だって……泉里さまがわたしを想っていてくださったことが……こんなにも嬉しい」
「舞衣。それは――」
両手を伸ばし、泉里の頬に指先を添える。
目を閉じ、精一杯に背伸びをして、口づけで答えを返す。
「――愛しています。わたしも、泉里さま……あなたのことを、誰よりも」
一語一語に想いを込めて告げれば、泉里はゆっくりと目を瞠り、それからくしゃりと嬉しそうに破顔した。
どちらからともなく唇を重ねる。
口づけは瞬く間に深くなって、思考はすっかり溶かされて、何も考えられなくなっていく。
愛おしくて、たまらない。
全身を甘くて幸せな感情に満たされていきながら、舞衣は心の底から思った。
(わたしは……今、きっと世界で一番、幸せ者だわ)
*
帝都外れの廃教会。
打ち捨てられてまもないのか、天井や床は朽ちた部分が目立つとはいえ、あざやかなステンドグラスが美しい建物の内部を垣間見て、浄祓部隊の面々は一様に狼狽えていた。その中には、柄にもなく顔を赤くしている者までいる。
「なあ、俺たち、今入っていっていいのか……?」
「……どうしますか、副隊長」
指示を仰がれた柊哉は肩をすくめる。
「そんなに後で隊長殿に恨まれたいなら、今すぐ突入してみればいいんじゃないですか? やれやれ、本当は泉里が灘乃千沙を牽制して時間を稼いでいる間に、我々が結界を突破してあの子を救出する手筈だったのですけど……もう僕たちの出番はないどころか、お邪魔にしかならないみたいですね。……まあ、でも」
帝都よりはるか高く。
青く澄み渡る空を見上げながら。
柊哉はひそかに、つぶやいた。
「――我が友人達の門出に、心からの祝福を」
「え? 副隊長、何か言いました?」
「何も言ってませんよ。さて、我々は離れたところで、もう少し待ってあげるとしましょうか」
後で泉里と顔を合わせたら、いったいどんなふうにからかってやろうか。
そんなことを考えながら、柊哉は部下を引き連れてその場を離れたのだった。
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