2.再会

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 舞衣はあわてて首を横に振り、おけを返してもらおうと手を伸ばした。 「いいよ、大丈夫! 頼まれたのは、わたしだし」 「手が空いたの。舞衣のところに行けば仕事があるだろうと思って、あんたを捜してたのよ。それで、誰のところ?」 「……ウメさんのところ」 「了解。それじゃ」 「あっ……、和沙ちゃん! ごめんね、ありがとう!」  颯爽とした足取りで去っていく背にあわててお礼をすると、和沙は軽く手を振って返事をしてくれた。  彼女の腕には、舞衣からおけを預かる以前に、洗い物を山と入れたかごがあった。  ……和沙ちゃんだって、絶対、忙しいはずなのに。  手が空いているなんて、舞衣に気を遣わせないための嘘だ。  舞衣の後から女中となった和沙とは、同い年であるよしみで仲がよくなった。  もともと面倒見がいい性格もあるのだろう。  何かと仕事を抱えがちな舞衣を、和沙はよく気にかけてくれた。  ここに来たばかりの頃はひどかった、あからさまな陰口や嫌がらせも、和沙が来てからは少なくなったものだ。  本当に、和沙には感謝してもしきれないくらいだった。 (早く今の仕事を片付けて、わたしも和沙ちゃんを手伝わないと)  たらいに入った大量の米を、流水でてきぱきとといでいく。  その手際は、三年前のあの日よりも格段によくなっていた。 (あの日も、こうやってお米をといでいた……)  初めて泉里と言葉を交わした日のことを、舞衣は今もはっきりと思い出せる。  泉里が英国から帰ってくるまで、ここで待つと約束したことも。  ……とくん、と心臓が跳ねた。  ああ、まただ、と舞衣はこそばゆいような気持ちになる。  泉里が留学を終え、帰国する日を知らされてから。  舞衣は時おり、仕事中だというのに、こんなふうに胸が高鳴って仕方なくなることがあったのだ。 (……しっかり、しないと)  すると、透き通ってきたとぎ汁の水面に、はらり、と桜の花びらが浮かんだ。  どこから飛んできたのだろう。  何気なく顔を上げてみれば、吹き寄せてくる風はすがすがしく、春の花の香りがした。  見上げた空は、どこまでも青く澄んでいる。 (もうすぐ……もうすぐ、泉里さまに、お会いできる)  気の遠くなりそうなほどに長く感じた、この三年。  あの日の約束は、今日、ついに果たされようとしていた。
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