2.再会

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 それは、祝賀会の会場となる和室の準備に取りかかっていた時だった。  窓の外から、馬車の走る音がかすかに聞こえた。  軽快な(ひづめ)と車輪の音は、少しずつ近づいてくる。  やがて、どう、どう、と馬をなだめる声も聞こえてきた。  広間に飛び込んできた女中達が、目を輝かせて知らせた。 「みんな、泉里さまが帰っていらっしゃったって」 「さっき買い出しから戻ってくる時に、ちらっと見えたんだ。ますますかっこよくなられてたよ。あたし、惚れ惚れしちゃってさあ」 「本当!? やだ、あたしも見に行かなくちゃ」 「静かに! 騒ぐな! あんた達、浮かれてるんじゃないよ。まだ仕事は終わってないんだからね!」  にわかに色めき立った女中達を、女中頭が一喝して黙らせる。  それで、ひとまずはみんな、それぞれの仕事に戻ったものの……  女中頭が立ち去ってしまえば、もうかしましい女中達を黙らせる者など、誰もいなかった。  途端、あちこちでささやき声や笑い声が立ち始める。  漆塗りのお膳を並べながら、和沙が女中頭の口調をふざけて真似た。 「騒ぐな、浮かれてるんじゃないよ! ……とかなんとか、みんなには言っといてさぁ。おカツさんだって、絶対泉里さまを見に行ったに違いないんだから。ねえ、舞衣?」 「えっ! あっ……、和沙ちゃん? ええと……どうしたの?」  遅まきながらに声をかけられていたことに気づいて、舞衣は顔を上げる。  和沙はぱちくりと瞬きをした。 「どうしたの、って。それ、あたしが聞きたいくらいなんだけど。舞衣、あんた風邪でも引いた? 顔真っ赤よ」 「えっ!?」  言われてみれば、と頬に手を当てる。  本当だ……すごく、熱い。  指摘されてしまったことが恥ずかしくて、舞衣は思わず縮こまった。 (だって……。かっこよく、なられてた、って)  泉里の姿を、一目見たい。  その気持ちは、舞衣もみんなと同じだった。  それどころか、ここにいる誰よりも、舞衣が一番、そう強く思っているのではないかとさえ思う。  けれどその思いの強さゆえに、舞衣は少し不安になってもいた。  ……もし。  もし、泉里があの日の約束など、少しも覚えていなかったとしたら――。
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