2.再会

4/13
前へ
/105ページ
次へ
 英国は、遠い国だ。  舞衣には想像もつかないくらい、とてつもなく広い海を、何十日もかけて船で渡らなければたどりつくことのできない国。  ありとあらゆるものがこの国とは違った地で、きっと泉里は、さまざまな経験を積んだことだろう。見るもの聞くもの、すべてが新鮮であったに違いない。  ……それを、思えば。 (よく考えたら、わたしのことなんて、覚えているはずがないのかも……)  舞衣は思わずがっくりと肩を落とした。  そんな舞衣の目の前で、和沙がしきりに手を振って、正気に戻そうとする。 「……舞衣。おーい、舞衣。聞こえてる? ほんとにあんた、大丈夫?」 「うん。大丈夫……。風邪ではないから……」 「そう? ならいいけど。無理しちゃだめよ?」  すると、和沙は急ににやりと笑って、舞衣に顔を近づけて言った。 「ねえ。このあたりの準備もほとんど終わったしさ。ちょっとここ、あたしと一緒に抜け出さない?」 「え? 抜け出すって」 「何ぽかんとしてるのよ。決まってるでしょ、あたし達も泉里さまを見に行くの」 「え、えぇっ!?」  思わずすっとんきょうな声を上げてしまう。  和沙はあわてて人差し指を口元に当て、「しーっ」と顔を近づけてきた。 「ちょっと。大声出さないでよ」 「ご……ごめんなさい。でも」  それって、仕事をサボることになってしまうのでは?  目だけでそう訴えるも、和沙はますますいたずらっぽく笑みを深めるばかり。  ……こういう表情をする時の和沙を止めることは、難しい。  友として、もう二年の付き合いになる舞衣は、それをよく知っていた。  煮え切らない舞衣に、和沙が口をとがらせる。 「何よ。舞衣は泉里さまのこと、気にならないの? 見に行きたいと思わない?」 「そ、それはもちろん、気になるわ。でも……」  許されるのだったら、舞衣だって、すぐにでも泉里の姿を目にしたい。  けれど生来のまじめな性格が、舞衣に歯止めをかけている。 「か、和沙ちゃんっ。やっぱり……っ」 「……決めた。もしさぼったのがばれて怒られる時は、あんたも一緒よ。舞衣」 「和沙ちゃん……」  こうなると、和沙を止める手立てはない。  ふふん、と不敵に笑うと、和沙は舞衣の手を引いて広間を出た。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

632人が本棚に入れています
本棚に追加