2.再会

5/13
前へ
/105ページ
次へ
 和沙に手を引っ張られてたどりついたのは、相良家の庭園の一角だった。  英国文化好きの当主・相良(さがら)清充(きよみつ)の意向もあって、庭の大半は英国式に造られていた。  薄桃色の花に彩られた石畳の小道があり、その先には、薔薇(ばら)の花に囲まれた愛らしい東屋(あずまや)が見える。    陽差しを浴びて咲きほこる色あざやかな花達が、思わずため息をついてしまうほどに美しかった。 「よし、誰もいないわね。あのあたりなら見つかりにくいし、玄関にいる泉里さま達が見られるはずよ」  和沙に誘われるがまま、舞衣が座り込んだのは生け垣の陰だった。  確かにここなら、人目につくことはないだろうけど――。  舞衣はおずおずと遠慮がちにしゃがみ込む。  仕事をさぼった後ろめたさもあったけれど、それ以上に、急に緊張してきたからだ。  ずっと、ずっと会いたかった人が、今はもう、すぐ近くにいる――。  すると、ためらいがちな舞衣をもどかしげに見ていた和沙が、ぐいっと背を押してきた。 「ほら、何引っ込んでるのよ。見て、あそこよ」 「あ――」  その瞬間。  それまでのためらいも緊張も、何もかも消えてしまった。 「ああ、久しいな泉里。しばらく見ないうちに、立派になったものだ」 「ありがとうございます。父上こそ、お元気そうでよかった」  声が、聞こえた。  聞き間違うわけがない。  その声は。 (……泉里さま)  生け垣のすきまから、明るい陽差しが注ぐ。  そのあたたかくてまぶしい光の先に。  舞衣がこがれてやまなかった人は、確かにそこに立っていた。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

632人が本棚に入れています
本棚に追加